シャッターの向こう側。
「あ。じゃ、私はお邪魔みたいだから」

 去っていく加納先輩に手を振って、坂口さんを見上げた。


「……お久しぶりです」

「お久しぶり」

 坂口さんはニッコリと笑って、エレベーターホールの方を見る。

「……ちょっと、場所を移動しよう」

 その声にゆっくりと歩きだし、オフィス街を抜けた。

 どこまで行くんだろう?

 沈黙に気詰まりになりそう。

 思った瞬間、坂口さんが口を開いた。


「雑誌見たよ。荒城さんの隣にあって、見劣りしてなかったね」

 ああ……

 荒城さんとの『夏』を見てくれたんですね。

「ありがとうございます」

「うん。流石と言うか……凄いね」

 そう言って、微かに笑う坂口さん。

 確かあの時、あまり喜んでくれなかったですよね?

「本当にアイツ、売り込みにかけては天才的だよ」

「…………」

 ポツリと独り言の様な呟きに、何か刺を感じて立ち止まった。


 ……それは、宇津木さんの事?


 そしてそれは、私が宇津木さんのおかげで荒城さんとの仕事を勝ち取ったと……


 そう言いたいわけですか?


「……何が言いたいんですか?」

 坂口さんは振り返り、立ち止まっているのを見て目を丸くした。

「他意はないよ。本当に凄いよね?」

 ホントに?

 そう思いますか?

 ホントにそう思ってますか?

「そうは聞こえませんでしたが」

 坂口さんは一瞬だけ考えるような顔をして、首を振った。

「今日は仕事の話をしようと思って来た訳じゃないんだ」


 戻って来て、坂口さんは静かに首を傾げる。

「俺の何がいけなかったのかな?」

 あっけらかんとした問い掛けは、とても坂口さんらしくて……


 逆に……


 それが妙に痛かった。


「俺のどこが嫌? いきなり別れたいって言われても、納得出来ない」

 坂口さんは笑顔だけど、とても真剣な目をしている。

 それだけ、真剣になってくれた訳……なんですよね?
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