シャッターの向こう側。
「これは完璧なフリー契約の書類じゃないからな。フリーランス用個人契約書」

 うんうん。

「さっきも言ったと思うが、例えばお前がこの契約書にサインしてフリーの契約社員になったとしても……」

「はい」

「お前がこの契約を破棄しない限り、うちの社員に変わりない事になる。どんなに有名な写真家になったとしても」

 んん?

「つまりお前が著名な写真家になれば、結果としてうちの宣伝にもなる訳だ。うちの会社的には、有名写真家が働いてますよって感じか?」

「うはぁ……」

 つまりは、働く広告塔って事?

「迂闊な事はできないぞ? うちの社員に変わりはないんだからな」

 宇津木さんは苦笑して、コーヒーを飲んだ。

「利点は時間の自由さ。不利点は給与面だが……」

「うーん」

「見てると、お前にフリー契約書持って来たらイキナリ困りそうだし」

 え?

「何でですか?」

「お前、貯金がある様には見えない」

 思いきりテーブルに突っ伏したら、おでこをこれまた思いきりぶつけた。

 た、確かに、貯金はあまりしてない……

 って言うか、何かと物入りなんですよ!

 レンズは高いし、性能を重視するとどうしても、お札が羽根を生やして飛んでいくし!

「イキナリ掲載料のみの契約になったら、まず仕事がない時に困るだろうが」

 淡々と言われて、泣きたくなってきた。

 ……情けなくて。

「だいたいお前はまだ平社員みたいなもんだしなぁ? これで何かコンクールに入賞でもしてれば、もう少し基本給与も上がるんだが」

「どうせ、落選してますっ!!」

「だから参考までだな。一応、こういう手段もある」

 宇津木さんは微かに笑って腕を組んだ。

「ワザワザ会社まで行って、書類をとって来たんだから感謝しろよ?」

 え?

 ガバッと身を起こすと、涼しげな表情の宇津木さんを見た。

「もしかして、それで会社の近くが都合が良かったんですか?」

「そうだな。それと……」

 それと?
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