シャッターの向こう側。
「何をしてる」


「え……」


「だから、何をしていると聞いてる」


 こいつは馬鹿か?

 いい大人が、何をやってるんだ。

 雪は眉を寄せ、何か考えているらしいが……

「う、宇津木さんが、私のコト有野さんに怖がりだって言うから」

 つまりは、俺を怖がらせるつもりだったのか?


 まぁ、多少は……


「でも、全然怖がってくれなくてつまんない」


 ……そういう事にしておこう。


 例えば、

『水が落ちて来て背筋が凍った』だとか、

『実は心臓がバクバク』だったとか、

『風の音にビクッとなった』だとか、

『ただの残像に逃げそうになった』なんて、言わなくてもいいだろう。


 世の中、言わなくてもいいことがある。


 シーツの影からストロボつきのカメラを取り上げ、溜め息と一緒に雪に返した。


「依頼の写真は撮ったのか?」

「あ。はい。有野さんが付き合ってくれて撮りました」

「有野さんは?」

「一階にいます」

 唇を尖らせながら雪は立ち上がり、それから一緒に階段を下りた。


 そして一階でおもちゃの釣竿に、こんにゃくを吊した有野さんを見つけて深くうなだれる。


 この人にからかわれるのはいつもの事だが、いつになったら、こういう冗談をやめてくれるだろう。










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