御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

力を込めて握ったこぶしが、円卓の上で震えている。

しばらくうつむいたあと、陸はカッと目を見開いて、怖いくらいの視線を怜人さまに向ける。


「俺、大学やめて働きます」


「陸、そんなのダメよ!ちゃんと大学を卒業して、お父さんのように博士号も取って」


「姉ちゃん、そんなの無理に決まってるだろ。今だってギリギリなんだ。それに、姉ちゃんの犠牲の上に成り立つ勉強なんて人生の役になんて立つわけない。そんなの、嘘だ」


「陸!」


思わず立ち上がって陸のそばに歩み寄った私に、怜人さまが視線を向けた。その「大丈夫だから」と私を安心させるような優しい眼差しが、動揺していた私を落ち着かせていく。


「ごめん、意地悪がすぎたな。別にふたりを苦しめたかったわけじゃない。今日話をしたかったのは君たち姉弟ふたりになんだ。僕のプランを聞いてくれるかな。理咲、君も」


そう言った怜人さまが席を立とうとした時、扉が開いて注文した料理が次々と運ばれてきた。

私が食べたいと言った『エビチリ』も円卓に並べられて、怜人さまの顔にふっと優しい表情が浮かぶ。


「でも、せっかくだからまずは食事にしましょう。ふたりとも、席に座って」


立ち上がって私の手を取り、椅子を引いて座らせる。そのスマートぶりは、私だけではなく、料理を運ぶ店の女の子たちの視線までもを釘付けにしていた。





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