御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
そう言って、私の手を首に回させる。
「しっかりつかまってて。言うことを聞いてください。いいですね?」
無言でうなづくと、「いい子だ」と甘い声が耳元に落ちてくる。
顔が彼の首筋のそばにあるからか、爽やかで男らしい香りがまた鼻腔をくすぐった。
香水?私の周囲の男性で、香水をつける人などいない。
それでも、それは決して嫌な香りではなかった。
というより、油断すれば心を甘く酔わされてしまうような香りで……。
「ここまでくればもう大丈夫。さあ、もう目を開けていいですよ」
そう耳元でささやかれ、ぎゅっと閉じていたまぶたを恐る恐る開けると……。
「なんてきれいなの……」
彼に抱かれ、少し高くなった視界から見渡す夜の都心は、宝石箱をひっくり返したように様々な色の光で埋め尽くされている。
見たこともない幻想的な風景に、私は言葉を失った。
「本当に、まるで光の中に、僕らだけが浮かんでいるようですね」
「え……」
僕らだけが、と言われ、急に自分が見知らぬ男性とふたりきりでいることに気づかされる。
それに……こんな風に抱かれたままでいる状況に、今更のように慌てる。
「あの、助けていただいて本当にありがとうございました。もう大丈夫です。下ろしてください」
「あぁ、君が羽のように軽いから、ずっと抱いたままだなんて気づかなかった。……だけどまだ下ろせないな。君、靴はどうしたんですか?」
「あ……」