御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
耳をくすぐるような甘いテノールに、自然と体の力が抜ける。すると、抱かれたままゆっくりと体を起こされる。
ハッとして顔を上げると、すぐ近くに優しげな男の人の顔があった。
さらさらした髪が風に揺れている。
暗闇でも煌めいて見える瞳。
顔立ちは明らかに日本人離れしていて、外国の血が入っているのだと一目で分かる。
すっきりとした鼻梁、薄く、形の良い唇は自然に口角が上がっていて、ともすれば整いすぎた彼の美貌を優しげに彩る。
とても綺麗な人……。まるでヨローッパの絵画に描かれている、大天使のようだ。
「ふふ、びっくりした?だけど僕の方がびっくりしました。あのまま落ちちゃうんじゃないかって、本当はすごく焦った」
「えっ……?き、きゃああああ」
一瞬目の前のハンサムな顔に見とれてぼうっとしたものの、横の空間がすとんと切り取られたように何もないことにようやく気づく。
まさに屋上の端ギリギリに座った彼の膝の上にまたがった状態の自分に気づき、心臓が止まりそうになった。
あまりの恐ろしさに体が動かない。
彼のタキシードの胸に、思わずぎゅっとしがみつく。
「怖いですか?それじゃ、そのまま目を閉じていてください。そのまま僕につかまっててくれていい。その方がよっぽど安全だ」
彼はそう言うと、そのままゆっくり立ち上がった。膝の下に手を入れて、私を横抱きにする。
「あっ……」
「しゃべらないで。目も閉じたままでいてください。今暴れられると、本当に危ないから」