御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

光本製薬令嬢の披露宴の夜、夢のような出会いを体験した私を待ち受けていたのは、思いもよらない裏切りだった。


あれから間もなく、光本製薬は一方的に業務提携の解消を申し入れてきた。

そして自社が独自で開発した癌の特効薬を発売すると発表したのだ。

それは長年、父と康弘さんが共同で研究してきたものと同じものだった。

周到に準備していたのだろう。向こうはすでに特許も取得済みで、こちらに勝ち目はなかった。

父の会社、葉山化学工業は夢の特効薬という素晴らしい発明も、取引先の信用も失い、あっけなく倒産した。
長年慣れ親しんだ洋館づくりの自宅も、両親名義の預貯金も差し押さえられ、私たち家族はたちまち路頭に迷った。


この醜い騒動の立役者は康弘さんだった。
康弘さんは新薬の情報を持ち去り、光本製薬に流していた。
康弘さんに全面的に信頼を寄せていた父はショックと疲労から心臓の病で倒れ、四か月経った現在も未だに入院中だ。


現在、母は実家である伊豆に身を寄せ、父の看病を献身的に行っている。
二つ年下の弟の陸は学費が高いことで有名な大学の三年生で、卒業まではまだ一年以上あった。

父と同じ研究者の道を志す陸の夢をあきらめさせたくない、そう思って私も色々と仕事を探してきたが、幼稚園からエスカレーター式の名門私立に通い、アルバイトすらしたことのない世間知らずを雇ってくれる会社は、どこにもなかった。

そんな私を優しく受け入れてくれたのが真弓さんご夫婦だ。住む家の世話までしてくださり、何かと気遣いをしてもらった。

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