御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
あの日、あの人に貰った黒いカシミアのストール。
それは優しいくらい柔らかで、いつまでも触れていたい滑らかな肌触りだ。
そっと顔に押し当てると、あの時感じた彼のぬくもりに、また包まれているような気持ちになる。
そしてもう覚えてしまった匂い。香水、だと思うけれど……。
胸が騒いで、クラリとさえしてしまう男らしい香りに、彼の腕に抱かれた時のことを思い出し、自然に頬が赤くなる。
そっと広げて肩から羽織ると、まるで彼に包み込まれているような錯覚さえ感じる。
柔らかな肌触りを確かめながら、私は無意識にストールの隅を指でなぞった。
最初は気づかなかったけれど、隅っこの目立たない部分に、まるで目印のように見慣れない紋章が刺繍されているのだ。
最初はどこかのブランドのロゴかと思ったけれど、ただの既製品にしては精密な仕上がりだ。
ふふ、なんだか王子様のしるしみたい……。
「うん、また頑張ろう……」
じんわり湧いてきた温かな気持ちに勇気を貰い、私は明日からまた頑張ろうと決めた。