御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
得意げに口にした私の提案に、可憐さんは『あ!なるほど!』と大げさに手を打った。
『だけど、もしも何かあった時にはやっぱり私が不利だから、ここは可憐さんに契約書を書いて貰って……』
『自分の口からきちんと事情を話した方がいい』という私の提案を最後まで拒否し、可憐さんはメール室の面接をキャンセルする役割だけを買って出て、そのまま帰ってしまった。
ひとり取り残されてしまい、少し心細いけれど……。
彼女の事情を考えれば、あんな状態でお見合い相手に会いたくないというのも、分からないでもなかった。
「しょうがないか……」
こうなったら乗りかかった船、もうやりきるしかない。
ふかふかしたソファの上で、大きく息を吸って姿勢を伸ばす。
大きな息を吐き出したその時、歯切れの良いノックと共に、隙のないスーツ姿の男性が入ってきた。
覚悟していたはずなのに、部屋に入っただけで感じる高貴な雰囲気に、自然に体が震えてしまう。。
やっぱり緊張する……。
思わずうつむいた私に、正面の席に静かに座ったCEOから、まっすぐな視線が向けられているのを肌で感じる。
……私のやろうとしていることは、こんな大企業の経営者相手に、きっと余りにも無謀な行動だ。
ちらりとまともな考えが頭をよぎる。