御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

穏やかな表情を浮かべたまま、彼は小首を傾げて私を見つめる。
この間と違って明るいこの部屋では、海を映したようなブルーの瞳がことさら目を引いた。
長い指で顎を支える、思案気な瞳が私を捉える。


「だから、お見合いをお断りになることもなく、皆丸く収まりますし……」

「京極(きょうごく)家からの申し出は、今日きっぱり断るつもりでした。いくらなんでも大臣の口利きなんて……。職権乱用にもほどがある。僕はそういうのは嫌いです」


だ、大臣!?そう言えば、可憐さんは『ヤバいコネを使った』とは言っていたけれど……。


スケールの大きな話に、あっけにとられた私に咎めるような視線を向けながら、彼は追い打ちをかけるように続ける。


「本国の父にも相談して、今日彼女がゴネたら、外交筋から正式に断りを入れるつもりでした。それに何も関係ないあなたを巻き込むなんて……。第一、あなたは今日メール室の面接のはずでしょう。それを受けずに何故ここにいるんですか」

「えっ……。どうしてそのことをご存じなんですか」

「……曲がりなりにも僕はここのCEOです。人事の予定は、一通り頭に入っています」

「で、でも……あの……」


こんなにたくさんの人がいる会社で、アルバイトに応募した人まで把握しているなんて……。

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