御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「窓を開けてもいいですか?」
「大丈夫ですか?酔ったのかな」
「いえ……平気です」
少し心配そうな怜人さまに、弱弱しく微笑みを返す。
酔ったのは車にではなく——あなたとあなたの香水に。
今、この一瞬だけ。私だけの横顔に、私はこっそり見とれた続けた。
車が停まったのは、最近できた外資系の五つ星ホテルだった。
こじんまりした作りながら、行き届いたサービスを売り物にしている、少し敷居の高いヨーロッパのホテルだ。
「このホテル、ロンドンにもあって、よく利用していたので懐かしくて」
「それなら、誰かイギリス人の方を誘われたほうが、良かったのではないですか」
そういった途端、少し不機嫌にフイと視線を逸らされてしまった。
何か失礼なことを言ってしまったのだろうか。
「あ、あの……」
慌てて困惑の視線を向ける私に、視線を逸らしたままの怜人さまがぶっきらぼうに言った。
「僕が理咲と一緒に来たかったんだから、それでいいんです」
見たことのない怜人さまの少年のような横顔に、思わずキュンとしてしまう。
——もしかして、拗ねたの?
何か口にしようと戸惑った私を置いて、そのまま歩き出してしまった怜人さまの背中を、慌てて追った。