御曹司は身代わり秘書を溺愛しています



最上階でエレベーターを降りると、すぐにレストランのスタッフが出迎えてくれる。

すでに予約が入っていたようで、私たちはすぐに窓際の席に案内された。

店内はシックなテーブルウェアで統一され、落ち着いた大人の雰囲気だ。


「とても素敵なお店ですね」

「ロンドンの店と、雰囲気が同じです」


懐かしそうに眼を細める怜人さまを見ていると、何故だか私まで嬉しくなる。


「最近は帰国しても仕事を済ませてとんぼ返りだから、ここ何年も訪れていません。嬉しいな、時々また来ましょう」


そう言って微笑む怜人さまに、心の中で問いかけてしまう。


……それはまた一緒に行こうということ?


次々に溢れてくる甘い疑問に、心が追いつかない。

慌ててグラスの水を口にする私を、怜人さまの優しいブルーの瞳が見つめている。


ダメだ。ドキドキが止まらない——。



『あれ、フィル?こんなところで、偶然だな』


不意に聞こえてきたきれいな発音の英語に、ハッと気持ちが切り替わった。

見ると、若い外国人の男女が、私たちのテーブルの前で立ち止まっている。

ふたりを見た怜人さまの表情が、ぱっと明るくなった。


『ハリー!?久しぶりだね』


立ち上がって嬉しそうにハグを交わすふたりは、とても親しい間柄に見受けられる。


『日本にこのレストランがオープンしたって聞いたから、早速来てみたんだけど、きみに会えるなんて本当にラッキーだ』


そう言ったハリーに笑顔を返し、怜人さまが私のそばに近づき、優しく肩に腕をまわしてくれる。
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