御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
勝手に憧れていた私にいち早く気づいたお父さんが、『じゃあ、理咲と結婚して会社を継いでくれよ』なんて冗談で言っていたのが、私が成長するにつれ現実味を帯びてきたというのが実際のところで、二、三年前からは、両親の口から具体的な言葉もでるようになった。
七年前父が始めた研究は、康弘さんの功績もあって実を結びつつある。
光本製薬と共同でいま治験を進めている癌の治療薬は、副作用がないばかりか免疫力まで上げる夢の治療薬として各方面から注目を浴びている。
そのことは本当に素晴らしいことだ。
それに長年会社の為に貢献してきたのだから、康弘さんが父の後継者になることは、ごく自然なことで……。
そう考えると、私と康弘さんが結婚すれば、全部丸く収まるってことかな。
「結婚、かぁ……」
この春、エスカレーター式の女子大を卒業して葉山化学工業に就職した私は、今父の秘書として働いている。
当然、康弘さんとも接する機会は多い。
特に対外的なことや契約関係を主だって担当していることもあり、その関係で一緒に出掛けることもある。
何年かぶりに間近でみる康弘さんは、以前の優しい青年ではなく頼もしい大人の男性で……。
『憧れのお兄さん』というイメージのままでいた私は、実のところ少し戸惑っている。
まぁ、彼氏いない歴二十三年の私にとっては、きっと誰に対してても戸惑うんだろうけど。