御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
何かに気づいて目を見開いた怜人さまに、六車さんが揶揄するような微笑みを浮かべる。
そして続いて、おどけたような視線をこちらに向けた。
そんな何を考えているか分からない六車さんを前に、私はただ黙って立ち尽くすことしかできない。
「怜人さま、あとは何かございますか。無ければ、私はこれで失礼しますが」
「……いいえ。お疲れ様でした。今日は六車さんも疲れたと思います。早く帰ってゆっくりなさってください」
それでは、と頭を下げて六車さんが部屋から出て行った。
ふたり残された部屋に、気まずい沈黙が流れる。
怜人さまは気づいただろうか?私が怜人さまのために、卵焼きとタコさんウィンナーのお弁当を作ったことを。
いや、自分がちょっと感傷的なことを言ったからと言って、天下の『Teddy 's Company』CEOに、まさかそんなものを作るとは思いもしないだろうか。
しかも前日には、素敵なレストランに連れて行ってもらっている。そのお礼がタコさんウィンナーだなんて……気を悪くするだろうか。
……いや、それよりもっと怖いのは……。
だまってその場に立ちすくむ私に、怜人さまが歩み寄る。
「理咲、今日はお弁当を持ってきたと言っていたけれど、もしかして僕の分も作ってくれたんですか?」
「……」
ダメだ。こんなんじゃ気づかれてしまう。私はこみあげてくる気持ちと、体中の熱が集まったかのように火照る頬を、俯くようにして隠す。