デジタルな君にアナログな刻を
あともう少しというところで、不意に思い至る。店長はもう帰ってきているのだろうか。もし帰宅していたとしても、わたしは彼があのビルのどの部屋に住んでいるのかを知らないから、インターフォンで呼び出しようがない。携帯もお財布も自宅だ。せめて郵便受けに名前が出ていればと、願うのみ。
勢いで飛び出したはいいけれど、早くも問題につまづいて気持ちが沈む。ついでにペダルまで重くなってきていた。
なんで?と手元を見れば、ピコピコと点滅するスイッチ。もしかすると充電が切れるサインかも。だけど引き返すのも難しい。この信号を渡ってしまえば、あとは駅前まで一直線。だったら、このまま突き進もうと覚悟を決めた。
ビルの駐輪場に自転車を置いて明かりの点くエントランスに回る。ずらりと並んだ郵便受けを端から確認していったけれど、半分ほどは部屋番号の表示だけで、出ている表札の中にも『薗部』は見当たらなかった。
神戸からここまで、どのくらいかかるのだろう。左手首の時計は午後9時29分。店長から電話があったは6時過ぎだったから、あれから3時間と少し経つ。
小銭でも入っていないかな。充のジャケットのポケットを漁ってみても、発見したのは丸めたティッシュだったり飴玉の袋だったり。ゴミぐらいちゃんと捨ててよ。
ついでに自分のパンツのポケットも探ったけれど、あったのはハンカチと一枚の名刺のみ。昼間、立河さんが置いていったものだった。
表には事務所の固定電話と携帯の番号が載っている。彼なら店長の自宅を知っているかもしれない。でも事務所にはもういないだろうし、携帯へかけてみるにしても十円玉の一枚もないので無理。
まだ戻っていない方の可能性に賭け、ここで待ってみよう。もししばらく経っても帰ってくる様子がなければ、その時は重たいペダルの自転車で帰ればいい。
エントランス内の片隅に置かれたベンチに座り、待機を決めこんだ。
直接の風は遮られているけれど、やっぱり寒い。長い袖に指先まで隠して暖を取る。膝の上に乗せた名刺の裏に書かれた文字を、穴が空くほど凝視していた。
エントランスの自動ドアが開く音がする度に顔を上げる。入ってきた住人らしき人に当然不審の視線を向けられるので、腕時計に視線を落とし待ち合わせを装っていた。
もう何時間もそうしているように感じるのに、時計の数字はそれほど進んでいない。いっそのことこれがアナログ時計だったら、耳に当て時が流れていることを実感できるのだろうか。無音で増えては減る、秒の数字を心の中でカウントしていた。
何十回目かの59が00に変わる。機械音がして冷たい空気が足元にまとわりつき、ぶるりと身体を震わせた。
勢いで飛び出したはいいけれど、早くも問題につまづいて気持ちが沈む。ついでにペダルまで重くなってきていた。
なんで?と手元を見れば、ピコピコと点滅するスイッチ。もしかすると充電が切れるサインかも。だけど引き返すのも難しい。この信号を渡ってしまえば、あとは駅前まで一直線。だったら、このまま突き進もうと覚悟を決めた。
ビルの駐輪場に自転車を置いて明かりの点くエントランスに回る。ずらりと並んだ郵便受けを端から確認していったけれど、半分ほどは部屋番号の表示だけで、出ている表札の中にも『薗部』は見当たらなかった。
神戸からここまで、どのくらいかかるのだろう。左手首の時計は午後9時29分。店長から電話があったは6時過ぎだったから、あれから3時間と少し経つ。
小銭でも入っていないかな。充のジャケットのポケットを漁ってみても、発見したのは丸めたティッシュだったり飴玉の袋だったり。ゴミぐらいちゃんと捨ててよ。
ついでに自分のパンツのポケットも探ったけれど、あったのはハンカチと一枚の名刺のみ。昼間、立河さんが置いていったものだった。
表には事務所の固定電話と携帯の番号が載っている。彼なら店長の自宅を知っているかもしれない。でも事務所にはもういないだろうし、携帯へかけてみるにしても十円玉の一枚もないので無理。
まだ戻っていない方の可能性に賭け、ここで待ってみよう。もししばらく経っても帰ってくる様子がなければ、その時は重たいペダルの自転車で帰ればいい。
エントランス内の片隅に置かれたベンチに座り、待機を決めこんだ。
直接の風は遮られているけれど、やっぱり寒い。長い袖に指先まで隠して暖を取る。膝の上に乗せた名刺の裏に書かれた文字を、穴が空くほど凝視していた。
エントランスの自動ドアが開く音がする度に顔を上げる。入ってきた住人らしき人に当然不審の視線を向けられるので、腕時計に視線を落とし待ち合わせを装っていた。
もう何時間もそうしているように感じるのに、時計の数字はそれほど進んでいない。いっそのことこれがアナログ時計だったら、耳に当て時が流れていることを実感できるのだろうか。無音で増えては減る、秒の数字を心の中でカウントしていた。
何十回目かの59が00に変わる。機械音がして冷たい空気が足元にまとわりつき、ぶるりと身体を震わせた。