デジタルな君にアナログな刻を
店舗に移動し、少ないながらも昨日の引き継ぎをする。がらんとしてしまったショーウィンドウに飾る時計はどれがいいか。わたしにそう訊かれて陳列棚に目を向けた彼が、折り紙で作った飾りをみつけた。

「これ、円ちゃんが作ったの?」

「はい。昨日、空き時間を利用して。少しはお正月らしくなりましたか?」

店長はショーケースの片隅に置いたニワトリを掌に乗せ、物珍しげに見回してから微笑む。

「うん、いいね。でも、この折り紙はどうしたの?店にはなかったはずだけど」

元の位置に折り紙を慎重に戻し、振り返った。

「百均で買ってきました。年末なんで、それっぽいものがたくさんあってよかったです」

「領収書は?レシートでもいいけど」

「そんなの、もうありませんよ。ほんの数百円だし、構わないです」

正確には3種類買ったから324円。家計簿をまとめてつけているので、まだお財布にレシートは入れたままだ。だけどわたしが勝手にやったことだし、それを請求するのも気が引ける。

「そういうのはちゃんとしないとダメ。いくらだった?」

自分は八千円近く残ったタクシー代のおつりの受け取りを渋ったのに、まだレジに入れていないお金の中から払おうとした。あれは彼のポケットマネーから出したから、ということなのだろうか。

ん?この、出納に対して妙に細かいのは前職が関係しているのかな。だけどそれなら……。
昨夜のあれやこれやでうやむやになっていた疑問が、唐突に浮上した、その時。

「あ!あの車、借金取り……」

「しゃ……、なに?」

店長の肩越し。ショーウィンドウの向こうを指差したわたしの不穏な言葉を聞き、店長も窓の外を見やる。わたしたちの視線の先には、黒塗りの高級車が先日と同じ位置に停車していた。

「……店長?」

少し震えてしまった声の中にある不安を感じ取ってくれたのか、店長はへにゃりと柔らかく目尻を下げ笑みを作る。それだけで落ち着きを取り戻すことができた。

「円ちゃん。悪いけど、シャッターを開けてくれる?それから、お茶の用意もお願いしていいかな。あの人、僕の淹れたお茶に文句を言うんだ」

小さく肩を竦めおどけてみせるけど、それはあの怖い人に限ったことではないような気がする。あの激渋のお茶を飲ませることで、さらに機嫌を損なってしまっては大変だ。私は神妙に頷いた。

売り物の時計たちが9時5分を示している店内は、まだ朝の掃除も終わっていない。それでも開店を一時間近く繰り上げ、薗部時計店は今年最後の営業を開始した。

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