デジタルな君にアナログな刻を
布の膨らみからある程度中身の予想はしていたけれど。

デザインや大きさからいって、婦人物の腕時計。楕円形の文字盤のインデックスには、小さな透明の石がはまっている。勘に過ぎないけれど、あれはダイヤ。そうでなければ、ベゼルに施された精緻な装飾と釣り合わない。細めのバングル部分にも彫刻とダイヤがあしらわれていた。
構成する部品のひとつひとつは豪奢なものなのに、全体をみれば不思議と落ち着きや気品を漂わせるその時計は、しっかり今の時を刻んでいる。

店長がテーブルの上でトレーを滑らせた。目の前に来た時計を手に取った顕義さんは、ためつすがめつして確認してから、安堵のため息をつく。

「ほう。見事に直っているようだ」

「修理を引き受けてくれる職人を探すのに手間取り、ぎりぎりになってしまって申し訳ありませんでした。おばさんの退院に間に合ってよかったです」

座ったままで下げた頭を戻した店長は、背筋を伸ばした。

「これで、あの馬鹿げた話はなかったことにしてくださいますよね?」

強い語気で店長に迫られ、顕義さんの眉根がぐっと寄る。シワだらけの口元がむむむと歪んだ。

「だが、自分で修理もできんのに時計屋をやっていても仕方がないだろう。先々月の法事で会った時も、亨(とおる)ちゃ……お前の父親がそう零していたぞ。それなら、あくまでも趣味に留めておくのが正解なのではないのか」

ついこの間までわたしの中にあった正論を説かれ、はっとして店長に首を向ける。だけど彼は、わたしの焦った表情とは正反対に、ほんわりとした笑みをたたえていた。

「そんなことはありませんよ。今回のように、お客さんと職人の橋渡しをするのも立派な仕事のひとつですし、代々この店を贔屓にしてくれているお客さんもいますから。自分にできることを精一杯やるだけです」

穏やかに、けど自信を持って言い切る店長。そんなふうに考えていたのかと、感心するわたし。

「まあ、食べられなくなったら困りますから、その時はさすがに改めなければとは思いますけど。おかげさまで、今のところその心配はありませんし。好きなようにやらせてもらいます」

あ、やっぱり店長だった。だけどそこに安心を覚えてしまう自分に、苦笑いがこみあがってくる。だらしがなく緩みそうな顔を必死で取り繕っていたわたしの肩が、店長に引き寄せられた。
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