デジタルな君にアナログな刻を
「それに、こんなに可愛い婚約者もいるんです。百音ちゃんと結婚して薗部の本家に入るなんてこと、絶対にできませんから」
「はっ!?」
不本意ながら、わたしと顕義さんの声が重なり店内に響く。いったいぜんたいどういうことなの!?
「こんな小娘が薗部の嫁に?」
「小娘って!!」
うろんな目つきでわたしを眇め見る。そりゃあ、あなたに比べれば年齢も人生経験も三分の一程度の未熟者ですけど。知らず知らずのうちにお盆を持つ手に力が入っていた。
「円ちゃんは頼りになる大人の女性ですよ。それに、薗部の家は関係ありません。『僕』の妻になってもらうんです。失礼なことを言わないでください」
低い声が、静かだけれどずしりと響く。
「それとも、年齢が若いという意味でしたら、百音ちゃんこそまだ高校生でしたよね」
え?思わず店長を二度見してしまう。縁談だけでも初耳なのに、相手が高校生だなんて。目を見開いていたわたしに気づいた彼が、「大丈夫」と口を動かし小さく首を振った。
「あれも来年は大学生だ。先のことを考えてやるに、特段早い時期ではない」
「自分の孫だからといって、将来を押しつける権利はないんじゃないですか」
負け惜しみにしか聞こえない言葉を苦々しげに吐き出し、あくまで我を通そうとする顕義さんに、店長が呆れたふうに眉尻を下げた。
なんとも言えない重苦しい雰囲気。そこに、自動ドアの作動音が割って入る。
「お話中、失礼いたします」
「島崎さん!お久しぶりです」
入ってきた人物を確認した途端、店長の顔が明るくなる。確か、さっき車のドアを開けていた人だ。島崎さんと呼ばれた五十代半ばの男性は「ご無沙汰しています」と店長に笑顔で会釈して、顕義さんに歩み寄る。
「旦那様。そろそろ病院に向かいませんと、お時間が……」
「あ?もう、そんな時間か」
店内の時計で時間を確認し、冷めてしまったお茶をひと息に飲み干す。空になった湯飲みの底をへの字に口を曲げて眺め、音も立てずに茶托に戻した。
「まあ、こんなものか。島崎、行くぞ」
バサッと羽織の裾を翻して店から出て行こうとした。島崎さんが、テーブルの上の腕時計をクロスごと両手ですくうように持ち上げる。
「あ、あの!」
「なんだ?」
振り返った顕義さんの顔は思いっきりしかめられていて怯みそうになるけれど、ぐっと堪えて引き止めた。
「すみません。ちょっとだけ待っていてください」
三人の目が疑問の色を浮かべる中、急いでカウンター内に戻り、ショーケースのガラス戸を開ける。その中から羽が繋がった折り鶴を取り出し、島崎さんの手の中にある時計の端にそっと乗せた。
「……よかったら、奥様に」
ぎろりと顕義さんの鋭い視線がわたしに投げられる。その目を連鶴に落とし、ふんと鼻先でせせら笑ってから、「行くぞ」と声をかけ、背を向け出て行ってしまう。
やっぱり、こんなものいらないかな。取り除こうと伸ばした指先が空振った。島崎さんがすっと手を横に動かしたのだ。
「ありがとうございます。奥様もきっとお喜びになるでしょう」
折り鶴ごと時計を丁寧にクロスに包み、「失礼いたしました」と折り目正しくお辞儀をして、顕義さんの後を追いかけていった。
ガラス越しに眺めると、顕義さんは運転手が開けたドアからさっさと車に乗り込んでいる。やがて助手席のドアも閉まり、程なくして黒い車は店の前から姿を消した。
「はっ!?」
不本意ながら、わたしと顕義さんの声が重なり店内に響く。いったいぜんたいどういうことなの!?
「こんな小娘が薗部の嫁に?」
「小娘って!!」
うろんな目つきでわたしを眇め見る。そりゃあ、あなたに比べれば年齢も人生経験も三分の一程度の未熟者ですけど。知らず知らずのうちにお盆を持つ手に力が入っていた。
「円ちゃんは頼りになる大人の女性ですよ。それに、薗部の家は関係ありません。『僕』の妻になってもらうんです。失礼なことを言わないでください」
低い声が、静かだけれどずしりと響く。
「それとも、年齢が若いという意味でしたら、百音ちゃんこそまだ高校生でしたよね」
え?思わず店長を二度見してしまう。縁談だけでも初耳なのに、相手が高校生だなんて。目を見開いていたわたしに気づいた彼が、「大丈夫」と口を動かし小さく首を振った。
「あれも来年は大学生だ。先のことを考えてやるに、特段早い時期ではない」
「自分の孫だからといって、将来を押しつける権利はないんじゃないですか」
負け惜しみにしか聞こえない言葉を苦々しげに吐き出し、あくまで我を通そうとする顕義さんに、店長が呆れたふうに眉尻を下げた。
なんとも言えない重苦しい雰囲気。そこに、自動ドアの作動音が割って入る。
「お話中、失礼いたします」
「島崎さん!お久しぶりです」
入ってきた人物を確認した途端、店長の顔が明るくなる。確か、さっき車のドアを開けていた人だ。島崎さんと呼ばれた五十代半ばの男性は「ご無沙汰しています」と店長に笑顔で会釈して、顕義さんに歩み寄る。
「旦那様。そろそろ病院に向かいませんと、お時間が……」
「あ?もう、そんな時間か」
店内の時計で時間を確認し、冷めてしまったお茶をひと息に飲み干す。空になった湯飲みの底をへの字に口を曲げて眺め、音も立てずに茶托に戻した。
「まあ、こんなものか。島崎、行くぞ」
バサッと羽織の裾を翻して店から出て行こうとした。島崎さんが、テーブルの上の腕時計をクロスごと両手ですくうように持ち上げる。
「あ、あの!」
「なんだ?」
振り返った顕義さんの顔は思いっきりしかめられていて怯みそうになるけれど、ぐっと堪えて引き止めた。
「すみません。ちょっとだけ待っていてください」
三人の目が疑問の色を浮かべる中、急いでカウンター内に戻り、ショーケースのガラス戸を開ける。その中から羽が繋がった折り鶴を取り出し、島崎さんの手の中にある時計の端にそっと乗せた。
「……よかったら、奥様に」
ぎろりと顕義さんの鋭い視線がわたしに投げられる。その目を連鶴に落とし、ふんと鼻先でせせら笑ってから、「行くぞ」と声をかけ、背を向け出て行ってしまう。
やっぱり、こんなものいらないかな。取り除こうと伸ばした指先が空振った。島崎さんがすっと手を横に動かしたのだ。
「ありがとうございます。奥様もきっとお喜びになるでしょう」
折り鶴ごと時計を丁寧にクロスに包み、「失礼いたしました」と折り目正しくお辞儀をして、顕義さんの後を追いかけていった。
ガラス越しに眺めると、顕義さんは運転手が開けたドアからさっさと車に乗り込んでいる。やがて助手席のドアも閉まり、程なくして黒い車は店の前から姿を消した。