デジタルな君にアナログな刻を
「なんというか、こう……」

人様の親戚に対して言っていいものかと悩んで、言葉を濁す。すると隣からくすりと笑い声がした。

「ごめんね、偉そうでしょう?まあ、仕方がないのかな。あの人は殿様だから」

「殿様ですか」

比喩だろうか。確かに、あの尊大な振る舞いはそんな印象を受ける。

「聞いたことないかな?昔、松山台にあったお城のこと」

「知ってますよ。江戸時代に起きた饑饉の時に、米倉をすべて開けて領民を助けた名君がいたとか、大奥に輿入れした美貌の姫様がいたとか」

多少伝説っぽい話もあったけれど、この辺り一帯を治めていた領主の城が、ここから少し西にある松山台という土地に建っていたそうだ。

「そう。その直系である薗部家の御当主。つまり、世が世ならお殿様だった人」

突然とんだ話に、小学校で習った地域の歴史を思い出す。そう言われてみれば、城主の氏は『薗部』だったような。だけど近所にも学校にも何人か薗部姓の人がいて、授業の後は冗談で『殿』とか呼ばれていたし。

「もちろん、先祖をずっと遡ればどこかで繋がっている程度の同姓の人も多いけどね。あの人の家が本家で、ウチは分家。祖父さんが、顕義さんの父親の兄だったんだよ」

「ちょ、ちょっといいですか」

脳内で家系図を整理する。お祖父さんが当主の伯父にあたって、店長のお父さんとは従兄弟ということでいいのかな。……あれ?

「お祖父さんがお兄さん?」

そういう家って、年長者が継ぐものじゃないの?兄を差し置いて弟が跡を継ぐ。時代劇が一本撮れそう。

「あ、気づいた?そう。もとはウチの祖父さんが跡継ぎだったんだけど、時計にのめり込んじゃったせいで、家督を放棄させられて」

なんだか、本当にドラマの世界になってきた。

「その代わりに、この辺りの土地をもらったそうだよ」

「土地を、もらう……」

完全に別世界の話だ。夢物語を聞いているような気分で、店長の声に耳を傾けていた。

いろいろと教えてもらったことを混乱する頭で要約すると、その土地を活用して建てたアパートやマンションを持っていたり、農地として貸しているらしい。いわゆる、不動産賃貸業ということでいいのかな。
時計店も、お父さんが社長として籍を置く会社の一部になっているそうだ。……ややこしい。

そのうえ、『タイムズガーデンビル』のテナント部分と最上階の住居部分も、店長の家の持ち物だという。だから、ここの賃料も家賃も実質0。
それらから生まれる収益から諸々の経費を引いても、店長一家が不自由のない生活を送れるだけの余裕が残る。

そう告げられ、あまりの次元の違いに目眩がしそうになった。
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