デジタルな君にアナログな刻を
戸惑いだらけで理解しきれない中でも、ひとつ気になる点があった。

「それで。この店自体は赤字なんですか?」

店長のくしゃりと歪められた顔が、図星を示す。

「結果的に、時計屋のマイナスを他で補填するような形になってしまっているから、『道楽』とか『趣味』でやっているなんて言われてしまうのはしょうがないよね」

浮かべられた自嘲の笑みが、わたしの決心をより固いものにさせた。

「やっぱりここを辞めて学校に通います。そうすれば、ひとり分の給与が浮きますよね」

「だからそれは、大丈夫だって……」

堂々巡りになりそうな話を断ち切る。

「わたしが、勉強したいんです!」

予想以上に強くなった語勢に店長が面食らっている隙に、自分の中に生まれた想いをたたみかけた。

「昨日は、さっきの時計を受け取りに行っていたんですね」

「う、うん。笑美子さんが大切にしていた時計なんだけど壊れてしまって。退院までにどうにかして直してあげたいと、顕義おじさんから依頼を受けていたんだ。ただ、海外製の古いものだから、引き受けてくれる人がなかなかいなくて」

あの芸術品のような時計がひっそりと時を止めてしまった姿は目にしていないけれど、それを見た持ち主の落胆は想像が付く。そして、あれが再び動き出した時の喜びも。

「わたしも、そんなふうに大事にされている時計を直せるようになりたいと思ったんです」

驚いた表情を変えられずにいる店長から、壁にかけられた古い振り子の時計に視線を移す。

「そしていつか、あの時計にもう一度、時を刻んでもらえたらいいなって」

わたしにつられて視線を動かした店長の目が細められる。それからくたっと、さっきとは違い嬉しそうに表情を緩めた。右手で照れ臭そうに、がしがしと髪をかき混ぜる。

「参ったなあ。そうしたらもう、「いつも一緒にいたいから」なんて、ガキっぽい理由で反対することができなくなるじゃないか」

彼は真っ直ぐに立ち、頭を下げた。

「むしろお願いする。僕に代わってあの時計の止まっている時を動かして欲しい。――だけど」

身を起こし、急に声音を変えた店長を見上げたわたしのおでこの真ん中に、人差し指が突き刺さる。

「店を辞めることは許さないよ。学校の授業に合わせて無理のない勤務でいいから、ここで働くこと。実務経験も必要だからね」

「……よろしく、お願いします」

奈々美さんの『拘束王子』の意味が、少しわかった気がした。


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