デジタルな君にアナログな刻を
四季
琉球畳が市松模様に敷き詰められた六畳ほどの和室は、本来なら客間として使うのだろう。けれど、今そこの真ん中にはこたつが設置されている。
天板の上では、ぐつぐつと白い湯気を上げる土鍋。中身は、店長の好きな玉子とわたしの好物である竹輪が多めのおでんだ。

そして、汗をかき始めたビールのグラスがふたつ。
キッチンから戻ったわたしが席に着くと、それを各々が手に持ち軽く掲げた。

「では。円ちゃん、合格おめでとう!」

「ありがとうございます」

コチンと固い音を鳴らせ、泡を舐めるようにして一口喉に流す。うー、やっぱり苦手。顔をしかめるわたしを店長が笑った。

「無理しなくてもよかったのに」

「乾杯は『とりあえずビール』が大人の鉄板です」

真顔で答えたわたしのグラスが、甘いカクテルの缶にすり替わる。

「さあ、食べよう。円ちゃんはカラシ、要らないんだったよね」

「……はい」

相変わらずのお子様味覚は、この一年と少しの間にすっかり把握されていた。


今日は時計修理技能士3級の合格発表があり、無事合格のお祝いとして、店長の部屋でおでんパーティーをしているのだ。

基礎は学校でしっかり覚えたし、苦手な学科も店長が教えてくれた。実技は、息子に見切りをつけわたしを跡継ぎ認定してしまった、店長のお父さん――社長の指導を受けている。
片目が不自由とは思えないほどの手仕事を間近で見せてもらえるのは、何よりの勉強になっていた。
店長は、こちらに用事がなくても頻繁に戻ってくるようになった父親を、少々鬱陶しく思っているみたいだけれど。

この調子で、いずれは2級、1級とステップアップしていきたい。時計店を営むのに必須な資格というわけではないが、お客様の安心と信頼を得られるし、箔が付く。取っておいて損はない肩書きだ。
だから店長も、なんとか3級だけは取ったみたいだし。

本音を言えば、引き続き日中のコースへの編入か、数年でもいいからどこかの時計工房で修行させてもらいたかったくらい。

実はそれを少し前に、チラリと匂わせたことがあった。

< 127 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop