デジタルな君にアナログな刻を
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『前に笑美子さんの時計の修理をお願いした神戸の時計師さん、すごく腕がいいんですよね?』

『うん。あの時計を直せたくらいだからね』

オークションサイトのアンティーク時計を眺めていた手を止めずに答える店長。

『いくつくらいなんですか』

『40歳くらいじゃなかったかな。若い頃に、ヨーロッパのあちこちで修行していたんだって』

ヨーロッパ修行と聞き、ゴクリと唾を飲み込む。さり気なさを装って、

『……その人って、お弟子さんとかいるんですか、ね?』

すると店長がマウスから手を離し、事務椅子をくるりと回転させてこちらを向いた。その顔には剣呑な色が濃く現れている。

『円ちゃん、まさか弟子入したいなんて言わないよね?』

あ、やっぱりバレますよね。へにゃっと笑ってごまかしたけど、店長の目は訝しんだまま。

『でも。店長もアンティークの修理ができるようになったらいいと思いませんか?人知れず眠っている時計を探し出して、再び時を刻ませる。ほら、素敵じゃないですか!?』

店長がわたしの味の好みを知っているように、わたしも彼の興味のツボは心得ているつもりだ。案の定、『アンティーク』という単語に口元がもごもごと反応し始めている。
あともう一押ししようと思った時、店長の口がキュッと引き結ばれ眉間にシワを寄せた。

『やっぱりダメ。勉強したいならいくらでも協力はするけど、神戸になんて行かせられない。お願いだからここにいて』

まるで駄々っ子。

『なんなら、上にある祖父さんの時計を練習台にしても構わないから』

『それは、さすがにちょっと無理です』

素人に毛が生えたような状態で、あのコレクションをどうこうしようだなんて恐れ多い。裏蓋を開ける決心をするだけでも、じっくり一日は睨めっこしてしまいそう。

『誰だって何にでも初めてがあるんだから、そんなに緊張することじゃないでしょう?』

少し意地悪く口角を上げられて、この話は終わらせられてしまった。

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