デジタルな君にアナログな刻を
窓の外は3月といってもまだ冬の寒さだというのに、少しのお酒と熱々のおでんで温められた身体はぽかぽかしている。

互いの親公認で、結婚を前提としたお付き合いを続けているわたしたち。

あと数日で卒業となる学校の授業がおして帰りが遅くなる時は、駅近のこの家に泊まることもしばしばあったため、殺風景だった部屋にも徐々に物が増えてきていた。
こたつもそのひとつ。無駄に広いリビングのソファーではどうにも落ち着けず、お願いして置いてもらったのだ。

もともと店長は、時計の保管部屋と寝るだけの寝室、事務仕事をしている書斎以外の部屋を使うことはほとんどなかったそうで、それ故の物の少なさだったらしい。
現に、覗かせてもらった書斎のデスクの上には、書類の山が築かれていたし、大きな書棚にもぎっしりと本が詰まっていた。

時計関係の本や税務や経理に関するものが大半だったけれど、それらが入り交じって並べられているのを見ると、これは意図したものなのか、それとも本当にテキトーなのか悩んでしまう。
今度、並べ直していいか聞いてみようか。なんとなく、「テキトーにどうぞ」といわれるような気もするけれど。

「なに?ニヤニヤして」

そういう自分も、さっきからずっとにやけている。なにが楽しいのだろう。

「適当にテキトーなのも悪くないな、って思ってたんです」

ちょっと酔いの回ってきた頭で伝えると、店長は笑みを深めてからすっと立ち上がった。何も告げずに時計部屋へ向かい、小さな箱を持って戻った彼は、不審な顔で見上げたわたしの手を取り立たせる。

「あらためまして、おめでとう。学校と仕事の両立、一年間よく頑張ったね」

繋いだ手に乗せられたのは、掌に収まる大きさの桐箱。目線で「開けても?」と尋ねると、「どうぞ」と頷き返された。
ぴっちりと閉められていた上蓋を取った途端、目映い金色が目に飛び込む。

「これ、懐中時計……」
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