デジタルな君にアナログな刻を
「百音が大学を卒業したら結婚して哲が跡を継げばいい。せっかく取った資格も少しは活かせるだろう」

「嫌ですよ。今までのと何桁も違う金額を扱うのなんて。だいたい百音ちゃんだって、こんなオジさんと結婚させられたくないでしょ?」

一回り以上年が違う。もはや犯罪だ。

「私はいいよ、哲ちゃんなら」

「はっ?」

膝下がスカートから覗く足を行儀よく揃えてソファーに座った彼女に、素っ頓狂な声を上げてしまう。

「哲ちゃんが会社を継いでくれるなら、私は好きなことをしていいって言うし。同じ三十歳過ぎでも、学校の先生より哲ちゃんの方がずっとカッコいいもの」

彼女には小さなころから懐かれていると自覚していたけど、まさか結婚してもいいとまで思われているとは知らなかった。
だけど、こっちはもちろん結婚どころか恋愛対象としてさえみることなどできない。
可愛い親戚の女の子。それ以上でも以下でもない存在だ。

「やりたいことがあるなら、誰がなんと言おうとやった方がいいよ。だけど、そんなことで結婚相手まで決めなくていい」

前半部分は自分に向けた言葉でもある。オヤジたちがどう言おうと、好きな道に進めばよかった。時計に関われる仕事はなにも時計師だけじゃない。

そう思いつつも、この閑散とした店の状況では裏付けできるだけの実績がなく、説得力も激減する。

「じゃあ、こうしませんか?この時計が直ったら、ガーデンコーポレーションに入ることも、百音ちゃんとの結婚話も、二度と出さないでください」

「ええ~っ!」

なぜか顕義さんよりも百音ちゃんが大きな抗議の声を上げるけれど、僕の頭の中はすでに、修理を引き受けてくれそうな人のリストを引っ張り出すことでいっぱいになっていた。


それから、知り合いの時計師に片っ端から声をかけ、そのつても頼ってみたけれど、簡単には引き受けてくれる人がみつからなかった。

最低でも月に一度は、薗部本家で法事やら祝い事やら何かしらの集まりがある。たまに両親の代わりに出席すれば、すかさず顕義さんから進捗状況を訊かれ、適当にごまかすことが続く。

なんとかなるだろう、と適当に引き受けた自分の中にも、いい加減焦りが出始めていた。
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