デジタルな君にアナログな刻を


ほどなくして運ばれてきたコーヒーと紅茶。続いてチョコレートムースに、件の苺パフェ。白とピンクで作り出された、まさにお姫様のドレスのようなそれを、店員は間違えることなく僕の前に置いて去って行く。

だいだいこういう類いは写真と実物の差があるものだけれど、今回に限っては実に忠実だった。

「なんか、すごい迫力だね」

甘いものは嫌いじゃないが、さすがにこれをつつくにはそれなりの勇気がいる。てっぺんに頭のように乗っかる真っ赤な苺を遠慮なくフォークで突き刺した。
芸術的に盛られたチョコムースに、感動の眼差しを注いでいたはずの円ちゃんの目が点になる。

作り物めいた艶のあるそれで、呆気にとられてぽかんと口が半開きになっている彼女の唇に触れた。苺越しでも伝わる、柔らかな感触。

「どうぞ」

「え、もらっていいんですか?」

パフェのメインともいえる苺に目を輝かせる。「もちろん」と頷けば、フォークを受け取ろうとする。だけどもちろん、そんなことを許すはずはない。
一度手を引いた。

「そうじゃないでしょ?」

僕の意図を察して苺に負けないくらい紅くなった顔で、日曜の午後、混雑する店内を見渡し声を潜めた。

「……ここで、ですか?」

「誰も見てないよ。ほら、クリームが落ちちゃう」

催促に、渋々といった様子で遠慮がちに小さな口を開ける。そんなんじゃあ、入りきらないのだけれどな。
円ちゃんは口元に寄せられた苺に歯を立て、フォークの先から奪い去っていった。

器用に大きな苺を全部口の中に入れ頬張ると、硬かった表情がどんどん緩んでいく。

「甘い……」

唇を果汁で濡らした満面の笑みの方がよっぽど甘くて美味しそう、などと口に出したら、ドン引きされるだろうから黙っておく。パフェから抜いた、ハート型をしたピンク色のチョコプレートの甘さで我慢した。

チョコムースのお皿を横にずらして、パフェを彼女の前に押し出す。

「こっちを先に食べて。アイスが溶けるから」

やっぱりそうきたか、と一瞬躊躇う様子を見せたけど、暖かい店内の室温ですでにストロベリーとバニラのアイスの境目が混ざり始めているのを見て諦めたらしい。柄の長いスプーンで果肉が混じるストロベリーアイスをすくう。

一口食べてしまったら腹をくくったのか、もうスプーンが止まることはなかった。

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