デジタルな君にアナログな刻を
がらんとした店内を見渡す。カウンター代わりにもなっているガラスのショーケースの中には、申し訳程度の腕時計が並んでいる。自動車やマンションが買えちゃうような高級品は、もちろんひとつもない。実用的かつお手頃価格の物ばかり。壁際の棚には目覚まし時計や置き時計。それだって、『豊富な品揃え』とはほど遠い。

ショーウィンドウのディスプレイでも替えてみようか。そう思って目を向けると、表で落ち葉が木枯らしに舞って
いた。

「外、掃いてきますね」

カウンターの奥でパソコンの画面を観ている店長に声をかけ、掃除用具のロッカーに置いてあった竹箒を手に裏口から外へ出る。室内との温度差に鳥肌が立ったけれど、コートを取りに戻るのも面倒で。動けば暖かくなるだろうと、どこからともなくやってくる枯れ葉を集め始めた。

元はベッドタウンである市の二路線だけしかない駅でも、少し離れた場所に最近できたスパ施設やアウトレットモールのおかげか、昼間もそこそこの利用者がある。
駅へ向かう人、駅から出てきた人の小さな波を避けながら乾いた音を立てつつ箒を動かしていると、薗部時計店のお隣さんである不動産屋、タイガーハウジングの扉が開いた。

「おはよう! 円ちゃん」

玄関先にある観葉植物に水をやるためのじょうろを持った奈々美(ななみ)さんが出てきて、にっこりと笑う。わたしより五つも年上のはずなのに、ほんわかした笑顔がかわいらしい人だ。

「おはようございます」

ぺこりとお辞儀したわたしの箒を見て、奈々美さんも頭を下げる。

「落ち葉、ありがとう。こっちの方まで片付けてくれたんだ」

「いえ、ついでですから」

本当についで。自分のところだけ綺麗になるのは申し訳なくて、気がついたらこのビルの前――ウチの店と不動産屋、その向こうにあるコンビニ、と1階に入っているテナントの前をずーっと掃いてしまっていた。

こんもりとできあがった枯れ葉の山をゴミ袋に入れようと苦労していたら、じょうろを置いた奈々美さんが袋を広げて持ってくれたので助かる。

ぎゅうぎゅうと押し込みながらなんとか一袋にまとめると、結構な重さになった。それなのに、もう新たな落ち葉が集まり始めていてげんなりしてしまう。

「なんだかきりがないね」

「……とりあえず、今日はこれで諦めます」

満杯の袋を持ち上げゴミ置き場に行こうとすると、「そうだ!」と呼び止められる。
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