デジタルな君にアナログな刻を
「今日はお昼、お弁当?」

「いいえ」

せっかく作ったおにぎりを大学生の弟に強奪されてしまったから、そこのコンビニでパンかおにぎりでも買おうと思っていたところ。

「じゃあ、一緒にランチしない? 安くておいしいお店、教えてもらったんだ~」

お誘いは嬉しいけれど。予定よりも高くつきそうで答えを渋ってしまう。そんなわたしの性格をとっくに見抜いている奈々美さんは、左手の親指と人差し指で丸く円を作る。

「ワンコインで、おなかいっぱいになるの。ご飯もおかわり自由!」

ご飯ということは定食屋さん? 500円なら許容範囲かな。なおも考え込むわたしに追い打ちがかけられた。

「もちろん税込みよ」

「……奈々美さんのお昼休み、何時からですか?」

「今日は1時から。大丈夫そう?」

お互いに休憩時間は他の人との兼ね合いで毎日変わる。店長も外へ出かける用事はなさそうだから、頼めばたぶん平気だろう。

「わかりました。じゃあ、お昼に」

わたしの頷きを確認すると、奈々美さんはまた嬉しそうに笑って小さく手を振りながら店内に戻っていった。

さて、と重いゴミ袋を持ち上げた手が急に軽くなる。驚いてみれば、袋に自分とは違うもう一本の腕が伸びている。

「僕が持って行こう」

そう言って軽々と持ち上げてしまったのは、ビルの2階にある立河正巳(たちかわまさみ)税理士事務所の所長さん。アラフォーのはずだけど、ツヤツヤの髪とお肌はずっと若く見える。

「え? あ、すみません。ありがとうございます」

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