デジタルな君にアナログな刻を
息を切らせながら団地の敷地内を抜け、バスが通っている道路まで出る。きょろきょろと見回すまでもなく、路肩に停めた白い乗用車にもたれかかるようにして立つ店長の長身をみつけた。

オフホワイトの浅いVネックのリブニットに細身のブラックデニム。その上にグレーのチェスターコートを羽織っている。スタイルのいい人は得だな。ごく普通の格好をしても様になってしまう。

まだわたしに気づかないのか、コーヒーの缶を持ち、ぼーっと空を眺めながら吐いている息が白い。テレビの天気予報では、この冬一番の寒気がやってきていると言っていたっけ。

足を緩めて弾む息を整える。走ったせいか、心臓は平常時の倍くらいの速さで脈を打っていた。

「お待たせ、して、すみま、せん」

さも「のんびりやってきました」的な感じを繕おうとしたけれど、わたしの口から出た言葉は変に掠れて途切れ途切れだったから、バレバレで。

「ずいぶん早かったね。ゆっくりおいでって言ったのに」

逆光で眩しかったのか、眼を極限まで細くして笑われた。
飲み終わった空き缶を自販機横のゴミ箱に入れると、店長がスマートに助手席のドアを開ける。

「じゃあ行こうか。寒いから早く乗って」

「お、お邪魔します」

ちょっと緊張しながら乗り込むと、パタンと扉が閉められた。後部座席に脱いだコートを無造作に放り入れた店長は、スルリと運転席に着く。わたしのシートベルトを確認し、少しだけ袖をたくし上げてハンドルを握った。

「ホームセンターでいいかな?」

「はい。たぶん、だいたい揃えられると思います」

昨夜した予習の成果を伝えると、車は文字通り静かに発進した。母の軽自動車とはまったく違い、あまりに静かでびっくりする。不思議に思うわたしに「電気自動車だから」という答えが返ってきた。

「もっとクラシカルな車に乗っているのかと思いました」

「ワーゲンとかミニとか?」

車には詳しくないけど、たぶんそんな感じ。ドラマやアニメの観すぎかな。

「あの手の年代物の車って、ある程度メンテを自分でできないと維持が大変らしいよ。さすがに最近のは違うだろうけれど」

「それってなんだか、時計と似ていますね」

彼の懐中時計もお祖父さんやお父さんの手がずいぶんとかけられていて、中身はかなりの部品が新しいものに取り替えられているそうだ。それだけ大切にされてきたからこそ、何代にも渡って時を刻み続けることができる。

「それに僕、オートマ限定だし」

「……そこはアナログじゃないんですね」

車内がすっかり暖まった頃、市の外れにある大型ホームセンターに到着した。
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