デジタルな君にアナログな刻を
「お昼ごはん、ここにしませんか」

駐車場までの途中でみつけたフードコートの前で足を止めた。店長と食事なんてしたことない。どこへ連れて行かれるのか分からない。味の好みもだけど、金額だって予想ができなくて不安だ。それに比べて、ここなら自分の好きなものを選べる。

「え、ここで?」

お昼時のフードコートは満員御礼だけど、回転も早そうだ。ちょっと待っていれば、2席分くらいは空くと思う。案の定、端っこの方で席を立とうとしている若いカップルらしき二人連れをみつけ、わたしは空席を取るべくさささっと移動した。

「円ちゃんっ!?」

テーブルの間隔が狭い場所で、重いカートを操りながら進んでいく後ろを店長が追いかけてくる。家族連れが多いからか3席以上を狙っている人たちが大半みたいで、どうにか小さなテーブルを確保することができた。

「本当にここでいいの?」

水滴やなにかのソースが残るテーブルを持っていたウェットティッシュで拭くわたしに、騒がしい周囲を見渡しながら、店長が確認してくる。

「ここ『が』いいんです。荷物と席の番をしていますから、店長が先に買いに行ってください」

「そう。じゃあ、円ちゃんはなにが好き?嫌いなもの、ある?」

周りを取り囲むように並ぶお店を珍しそうに眺めながら訊かれて、首と手を振った。

「え?自分で買いに行くからいいですよ」

「これくらいで遠慮とかしないでよ。だったら、テキトーに見繕ってくるから待ってて」

人混みの中を右に左に揺れながら行ってしまった背中が、なぜかちょっと楽しそうに見えたから、まあいいか。戻ってきたら代金を払おう。

もう一度テーブルを綺麗にしながら、彼がどこのお店を選ぶのか気になってしまって眼で追いかける。雑多な色がめまぐるしく動く中でも、店長の灰色の背中を見失うことはなかった。
< 44 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop