デジタルな君にアナログな刻を
戻ってきた彼が持っていたトレーの上には、ホットコーヒーとアイスウーロン茶。それと、番号の貼ってある小さな呼び出し用の器械がふたつ。それらを置き「好きな方を飲んで」と言い残し、店長はまたふらふらと行ってしまった。

これ、鳴ったらどうすればいいの?この場を留守にするわけにはいかないし、と思っていたら、今後はずいぶん早く戻ってくる。その手には、たこ焼きとフライドポテト。小さなテーブルは、それだけでもういっぱいいっぱい。

「店長、そんなに食べるんですか?」

「なに言ってんの?もちろん円ちゃんの分だし」

えっと、じゃあこっちは?持ち上げた器械の片方がピーピーと音を立て、少し遅れてもうひとつも鳴り始めた。

「おっ!できたみたい。取ってくる」

器械を持っていそいそと受け取りに行ってしまうから、少しでもスペースを作ろうとテーブルの上を整理する。

さっきよりは慎重な足取りで戻ってきた店長のトレーには、五目焼きそばと石焼きビビンバが湯気を上げていた。

「どっちがいい?」

「どちらでも」

曖昧なわたしの返答が気に入らなかったのか、「どっち?」と眉を寄せて選択を迫られる。

「……ビビンバ、もらってもいいですか?」

「もちろん!どうぞ。さあ、食べよう」

トレーごとわたしに渡して、自分は焼きそばのお皿を手に持ったまま食べ始めた。

「あんまりこういうところに寄らないから、目移りしちゃって。いろいろあるんだね」

先に食べ終わった店長は、コーヒーを飲みながら冷めてしまったたこ焼きをお箸で摘まむ。

「わたしも久しぶりです」

こちらはなかなか冷めないビビンバを、冷たいウーロン茶と交互に口に入れる。最後の一口まで熱々のまま食べ切ると、店長はポテトの口をこっちに向けてきた。すでに、けっこうお腹いっぱいなんですけど。

「実は、フードコートにはちょっと苦い思い出がありまして」

1本摘まんだポテトを食べてから、当時を思い出してため息をついた。
当然店長は先が気になっただろうに催促はせず、なにも聞いていないといった様子でたこ焼きを食べ続けている。かえってそれが、長年心の底にへばりついていた愚痴を浮き上がらせた。
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