デジタルな君にアナログな刻を
「ここではないんですけれど。高校の時、初めての彼にフードコートでフラれたんです、わたし」

努めて明るく言ったつもりだったのに、店長の箸からぽろりとたこ焼きが落ちた。
わたしはそれを苦笑しつつ、紙おしぼりで拾う。そんな反応をされると、ちょっと続け難くなるじゃない。

「バイトのなかった日の放課後、デートに誘われて。貧乏高校生同士でしたから、学校以外の場所でただおしゃべりするだけで楽しかったんですよね、当時は」

ぼそぼそとわたしが話を続けると、店長は静かに割り箸を置きテーブルの上で両手を組む。そんなに真剣に聴いてもらうような話じゃないんですけど。

「でもその日のお昼に、母から電話が入ってたんです。弟が熱を出して早退していると。母はどうしても仕事が抜けられなくて。だけど弟はもう小学校高学年だったし、少しくらいなら大丈夫だと思ってたんです。それなのにわたし、無意識に何度も時計を見ていたらしいんですよね」

フードコート内にある時計。テーブルに置いた携帯の表示。彼の左手首の腕時計。

「そうしたら『オレといるの、そんなにつまらない?』って言われちゃって」

もちろん否定したけれど、結局誤解は解けなかった。彼の言い分によれば、わたしが時計を気にしていたのはその日だけじゃなかったそう。学校以外にも、家事やバイトと忙しくしていたから、いつの間にか常に時間を確認するクセが身に染みついてしまっていたのだ。

だから昨日、充に「あんたのせいで」と言いそうになったのは、完全に八つ当たり。

「さすがにその後しばらくの間は、時計を見るのが嫌になってしまいました」

今はその時計に囲まれて仕事をしているんだから、人生っておかしなもの。思わず自嘲の笑みが零れてしまう。

「……なんだ。そういうこと」

なぜか店長からもため息のような呟きが聞こえた。

「そろそろ行こうか」

店長は、数本しか減っていないのポテトをたこ焼きのパックに無理矢理詰める。味が混ざるのは気にしない。
それをはい、と渡されて、すっかりセンチメンタルな気分が吹き飛んだ。どうするんだ、これ。

「あとでおやつに食べよう」

やっぱりね。項垂れて視線を下げたら、パックを持つ自分の手首に、いつもの腕時計がないことに気がつく。出かけにバタバタしていて、うっかり着けるのを忘れていた。というよりも、店長から電話をもらったあの時以降、自分が一度も時間を意識していなかったことに驚く。

今、何時だろう。時計を求めて視線を彷徨わせれば、やけにスッキリとした笑顔を浮かべる店長と目が合う。
ムズムズとくすぐったいような感じがするのは、思いがけず恥ずかしい過去を語ってしまったせいだろうか。

「わたしはカートを押さないといけないので、これは店長が持ってください!」

パックを押しつけて、ガラガラうるさいカートと一緒にフードコートを後にしたのだった。
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