デジタルな君にアナログな刻を


お客様がいないのはいつもと変わらないはずなのに、休業日の時計店は静けさが際立つように感じる。ガラス一枚隔てた向こう側は、日曜日でいつもより人通りが多いというのに、妙なものだ。
だけど静かなのもそれまで。ガサゴソと荷を解く音が締め切った店内に響き始めれば、途端に時間は忙しなく動き出す。

店長は車を裏の立体駐車場に入れて戻ってくると、広げられた荷物の多さにあらためて感心する。

「これだけ買ったのにあの金額で収まったなんて、円ちゃんは買い物上手だね。いい奥さんになれそう」

「持ち上げたってダメですよ。ちゃんと手伝ってもらいますから」

さっそくお茶を入れに行こうとする彼を引き留めた。

店のパソコン画面に、昨日検索してみつけた雪の結晶の作り方を表示させる。買ってきた厚紙で、それを参考にしながら切り抜きを作る作業をお願いして、わたしはショーウィンドウのディスプレイに取りかかった。

店内のレトロな雰囲気を壊さないよう、使う色はできるだけ抑えてナチュラルなものに統一する。うっすら雪化粧したツリーのオーナメントも、松ぼっくりなどの木の実をいくつか飾るだけ。キラキラした電飾はしない。
時計を並べる棚にはコットンの雪を積もらせた。そこに、緑と赤、それぞれの包装紙で包んだ腕時計の小さな化粧箱に、ゴールドとシルバーの細いリボンをかけて置く。
ぱっと目を引く色はこれだけ。余った木の実を散らし、LEDのキャンドルライトを配置した。

「店長、できましたか?」

ひたすら厚紙と向き合っていた彼に声をかけると、眉間に刻まれていた深いシワが開く。

「うん、あと少し」

そう答えた彼の作業机の上には、失敗作と思われるくしゃくしゃに丸められた紙と、持っただけで切れてしまうのではと心配になるくらい複雑で繊細な、数種類の雪の結晶が置かれていた。

「綺麗ですね」

そっと持ち上げると、掌の上で六花が咲いたよう。何でもない紙のはずなのに、凜とした冷たささえ感じられる。

「これをこのまま窓に貼るの?」

彼はようやく最後の一枚を切り終わりカッターの刃をしまうと、いつものように深い息を吐いてから訊いてきた。

「それも綺麗ですけど。今回はスノースプレーの型にさせてもらいます」

できあがりを見たら、ちょっともったいないと思ってしまうけれど。

窓の上の方にマスキングテープで固定して、スノースプレーを吹き付ける。均等にするのがけっこう難しくて、何回か失敗しやり直した。無駄にしてしまった分を店長が、また時間をかけて丁寧に作り直してくれる。紙に向き合う真剣な横顔に、思わず見とれたわたしの手が止まっていた。
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