デジタルな君にアナログな刻を
「これが最後で平気かな。……どうかした?」
掌に結晶を乗せられたまま動かないわたしを、眼を細めて覗き込む。
「あ、いいえ。ありがとうございます。その……メインで飾る時計はどれにしようかと考えていて」
咄嗟に思いついた言い訳にしてはよく出てきた、と自分を褒めたい。自動ドアの上部中央に雪の結晶を描きながら、焦りでばくばくする心臓を鎮める。
慎重にテープを剥がし終わり、ほっとため息をついて店内を振り返った。
「これはどう?」
いつの間にか真後ろに店長が立っていたことに気づかず、悲鳴を上げそうになるけど、実際には息が詰まって一声も出せない。相変わらず距離感が掴めなくて、心臓に悪いです。
見開いた眼に、差し出されたものが映る。
「ペアウォッチ、ですか」
ブレスタイプのバンドに、深い青の文字盤。針はシンプルなバトンで、インデックスも12、3、6、9時に細いバーの表示があるだけ。女性用の12時の位置には、たぶんジルコニアだろうけれど、数字の代わりに小さな一粒の石がはめ込まれていた。
全体的に、本当にスッキリとしたデザイン。無駄がないというより省きすぎ。時間を正確に読むのも難しいくらいだ。こんな実用性を無視した商品、ウチの店に置いてあった?
「これでは時計の意味がありません」
渋るわたしの言葉を無視し、店長は綿手袋をはめた手で、専用のスタンドにふたつの時計をセットして並べる。作り物の白い雪の中で、青い文字盤と銀色に光るブレスレットが悔しいくらいに映えた。
「恋人同士がこれを着けて逢っている時は、時間なんか気にして欲しくないかな」
甘く低く、囁くように言われ、胸が締め付けられたように痛む。
「それは、わたしに対する嫌みですか」
「ごめん、そんなつもりじゃなくて」
ギュッと口を結び俯いたわたしの頬に、くしゃりと顔を歪めた手袋越しの店長の手が触れた。
「んーっと。その元彼がきっと、円ちゃんと時間の波長が合わなかっただけなんだよ。本当に『この人』って思える相手となら、時の流れなんて一瞬にも永遠にも感じられる。気にしている余裕なんてできないはずだから」
眼と唇が、優しく弧を描く。
不意にゴシゴシと手袋の指先で頬を擦られた。
「スプレーの雪がついてた。もう、こんな時間だね。一段落したのならお茶にしよう」
その手をぽんとわたしの頭に乗せて、ひと撫でしてからバックヤードへ去って行く。わたしは擦られた頬に手を当て、その広い背中を見送った。
もう、どんな言い訳も屁理屈も意味がない。いい加減に認めざるを得なかった。
――わたし、店長のことが好きなんだ。
掌に結晶を乗せられたまま動かないわたしを、眼を細めて覗き込む。
「あ、いいえ。ありがとうございます。その……メインで飾る時計はどれにしようかと考えていて」
咄嗟に思いついた言い訳にしてはよく出てきた、と自分を褒めたい。自動ドアの上部中央に雪の結晶を描きながら、焦りでばくばくする心臓を鎮める。
慎重にテープを剥がし終わり、ほっとため息をついて店内を振り返った。
「これはどう?」
いつの間にか真後ろに店長が立っていたことに気づかず、悲鳴を上げそうになるけど、実際には息が詰まって一声も出せない。相変わらず距離感が掴めなくて、心臓に悪いです。
見開いた眼に、差し出されたものが映る。
「ペアウォッチ、ですか」
ブレスタイプのバンドに、深い青の文字盤。針はシンプルなバトンで、インデックスも12、3、6、9時に細いバーの表示があるだけ。女性用の12時の位置には、たぶんジルコニアだろうけれど、数字の代わりに小さな一粒の石がはめ込まれていた。
全体的に、本当にスッキリとしたデザイン。無駄がないというより省きすぎ。時間を正確に読むのも難しいくらいだ。こんな実用性を無視した商品、ウチの店に置いてあった?
「これでは時計の意味がありません」
渋るわたしの言葉を無視し、店長は綿手袋をはめた手で、専用のスタンドにふたつの時計をセットして並べる。作り物の白い雪の中で、青い文字盤と銀色に光るブレスレットが悔しいくらいに映えた。
「恋人同士がこれを着けて逢っている時は、時間なんか気にして欲しくないかな」
甘く低く、囁くように言われ、胸が締め付けられたように痛む。
「それは、わたしに対する嫌みですか」
「ごめん、そんなつもりじゃなくて」
ギュッと口を結び俯いたわたしの頬に、くしゃりと顔を歪めた手袋越しの店長の手が触れた。
「んーっと。その元彼がきっと、円ちゃんと時間の波長が合わなかっただけなんだよ。本当に『この人』って思える相手となら、時の流れなんて一瞬にも永遠にも感じられる。気にしている余裕なんてできないはずだから」
眼と唇が、優しく弧を描く。
不意にゴシゴシと手袋の指先で頬を擦られた。
「スプレーの雪がついてた。もう、こんな時間だね。一段落したのならお茶にしよう」
その手をぽんとわたしの頭に乗せて、ひと撫でしてからバックヤードへ去って行く。わたしは擦られた頬に手を当て、その広い背中を見送った。
もう、どんな言い訳も屁理屈も意味がない。いい加減に認めざるを得なかった。
――わたし、店長のことが好きなんだ。