デジタルな君にアナログな刻を
だけど、自分の中にある想いを認めたからといって、それに素直になるかというのは、また別問題。

ひとり悶々とした気持ちを抱えながら後片付けを進めていると、ロータリーの時計塔が音楽で午後5時を知らせた。ショーウィンドウから見える駅前の風景は、街灯が点きすでに宵の口といった体である。

広場の大きなツリーにも明かりが灯る。色とりどりに点滅するたくさんの電飾が、もうすぐクリスマスなのだと声を大にして叫んでいるようだった。

大雑把な掃除が終わる頃、扉の向こうから微かな電子音が聞こえ、程なくコーヒーとソースの混じった香りと共に店長が現れる。お皿に移し替えられたたこ焼きとフライドポテトは、しなしな感が増量されているけど熱々の湯気を上げていた。

「そうだ。試してみない?」

ガラスのショーケースの上にトレーを置くと、店長は飾ったばかりのキャンドルライトのスイッチを次々と入れ、店内の照明を落とてカウンター内に戻る。無事、全部が点灯したかを確かめて回っていたわたしを手招きした。

「円ちゃん、こっちへおいで」

子どもか仔犬にかけるような口振りなのに、薄暗い中で呼ばれると否が応でも鼓動が速まる。

「ほら、見て」

カウンターに並んで立ったわたしの目に映ったのは、本物の炎のように揺らぐ灯りに照らし出された作り物の雪景色。外からの灯りもあって、ほどよい陰影がさらに幻想的な雰囲気を醸し出していた。
店の外から見たら、きっともっと素敵だろう。すぐさま確認に飛び出したくなった気持ちと、店長と共有しているこの空間を天秤にかけ、前者を堪えることにする。

「いい感じに仕上がったね。お疲れ様。ありがとう」

ねぎらいの言葉と一緒に少し冷めてしまったコーヒーを渡された。思い返してみれば、これが初めて自分に任された『仕事』だったんじゃないだろうか。
照れくささと充実感の中に、ほんの少しだけ混じった、教師が生徒を褒めるような彼の態度への不満をコーヒーと一緒に飲み下す。

そんなわたしの横で、たこ焼きソース味のポテトを摘まみながら、機嫌良くショーウィンドウの外に向けていた彼の目尻がさらに下がった。

「ほら。まただ」

「なんですか?」

ポテトに伸ばそうとしていた手を引っ込めて訊き返し、彼の視線の先を追う。

「あ……」

今の気持ちをなんと言葉にすればいいのだろう。すぐには思い浮かべられない。
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