デジタルな君にアナログな刻を
「そんなことがあったのは知らなかったな。でも祖父さんらしいや」

回想にふけっていたわたしの意識を引き上げたのは、おじいさんとよく似て低い、だけど張りと艶のある店長の声。

「あの店でも、通り沿いの窓越しに店内の時計が見えるようになっていてね」

彼はほんのりした灯りの中でも辛うじてわかる、壁際の振り子時計の方を見た。

「あの時計がまだ動いていた頃だから、6年……いや7年くらい前になるのかな。子どもの時から、毎朝あれのゼンマイを巻くのが僕の役目で。でもとっくに店は閉めていたし、祖父さんが死んでずいぶん経っていたから、もう外してしまおうかと考えていたんだ。だけどある朝、店の前を通る人たちが、あの時計で時間を確認していることに気がついた。そして祖父さんがいつも座っていた店の椅子から、その姿がよく見えることも」

おじいさんは、お気に入りの時計がたくさんの人の目に留まるのが嬉しかったのだろうか。ちょうど今日、わたしが感じたみたいに。

「それからはなんとなく、ゼンマイを巻くついでに、椅子から外を眺めるのが日課になって。そうしたら、毎日のように時計を見ていく女の子をみつけた」

ただ店長の思い出話を聞いているつもりでいたわたしは、目を瞬かせる。だってそれは……。

「どんなに急いでいるようでも、必ず足を留めて時計を確認していく。朝ほぼ同じ時間に」

その頃のわたしは高校生。電車通学していて、駅までは自転車だった。当時の駐輪場は線路際の空き地にあって、駅に行くには必ず時計屋さんの前を通過しなくてはいけなくて。

「一度気になり始めると、やけに目について。もしかしたら、自分は危ないヤツじゃないかと心配になるくらいだった」

自嘲気味に形のいい唇を歪ませ肩を竦める。当時彼は20代半ば。女子高生を追いかけるのは、やっぱりマズいという自覚があったのだろう。

「だけどその子は、ある日を境にぴたりと時計を見るのを止めた。毎朝、前は通っているのにね。どうしたんだろうとは思ったけど、もちろん訊いてみることなんかできない。そうこうするうちに時計の調子もおかしくなってきたし、区画整理で立ち退きが始まるしで、すっかり忘れていたんだ。あの日までは」
< 51 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop