デジタルな君にアナログな刻を
午後2時30分 来客
母も弟もいない月曜日。撮りためたドラマやバラエティーを観るともなしに流しながら、自分の気持ちをどう処理したらいいのかを考えていた。

後先考えずに告白する?

もし、というか、十中八九で断られ、仕事をし辛くなるのは全力で避けたい。再び職探しの日々に戻るのは勘弁。

だけどほんの数パーセントの確立で上手くいったとして、わたしは店長とのその先、なにを望むのだろう。

自分はまだ23で結婚願望も強くはないけれど、向こうはもう32だ。普通だったら『結婚』を考えてもいい年齢。むしろ、その年になっても『付き合う』と『結婚』は別などど考える男性はいかがなものか、とも考えなくもない。

夢見るアラサーと、結婚?そこに明るい未来はある?

いきなり将来を意識するような女は、やっぱり重いと思われてしまうかもしれない。
だけど、将来を見据えたお付き合いもできない人の恋人になりたいのか、なってもいいのかを自問自答し続けていた。

ちょっと待って。そもそも、わたしはなんで店長を好きになったんだろう。

冷静に己を分析するため、こたつの上ですっかり冷めてしまったお茶を飲み干す。今まで通りちょうどいい量の茶葉を使って淹れているはずなのに、なんだか物足りなさを感じた自分に頭を抱えてしまった。

彼のいい加減さや適当さを承知の上で、そこから醸し出される柔らかな雰囲気や時折見せる真剣な表情に、安らぎやときめきを感じ惹かれたのだと思う。
時計を宝物のように扱う不器用だけど丁寧な手つきにドキドキし、愛おしささえ覚えてしまうのだ。

不意にあの指先が思い浮かび、途端に速まりだした鼓動の鳴る胸に手を当てる。どうやら、自分が思っていたよりも、わたしは店長のことが好きらしい。

だったら、惚れた弱みで彼のすべてを受け入れるのが筋というもの?

いや、でも、だけど……。

久しぶりに恋の沼にはまり込んでしまえば、思考は正常になんて働かず、不毛な堂々巡りを繰り返すだけ。いくら悩んでみたところで、明確な答えなんか出るはずはない。

結局、結論を先延ばしにして買い出しに行き電池を入れ替えた目覚まし時計は、わたしの枕元へと出戻ってきた。

一向に出ない答えを保留にしたまま、いままで通りに振る舞うことに神経を遣って仕事をし、ぐったりと帰ってきても、店長が好きだという秒針が進む音はわたしの目を冴えさせる一方で。

あの休日出勤の日から、睡眠不足に悩まされる毎日が続いていた。
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