デジタルな君にアナログな刻を
「なんか、疲れてない?仕事が忙しいの?」

食後のミルクティーを飲みながら、奈々美さんが心配そうに訊いてきた。

今日は初めてもらったボーナスのお祝いで、いつもよりちょっとリッチなランチタイム。駅ナカにできたオシャレなカフェで、ローストビーフサンドのランチセットにとろとろプリンをプラスした。

奨学金も早く返済終了したいし、母に渡して充の来年度の学費の足しにしてもらいたい。それに、最近冷蔵庫から嫌な音がするのも気にかかる。
雀の涙程度だから無駄遣いはできないけれど、これくらいの自分へのご褒美は許されるよね。

肝心の仕事は、といえば、これといって大きな変化はまだ現れていない。それのそのはず、ディスプレイが目立つのは、日が暮れキャンドルの明かりを点ける夕方以降。なのに、当店の営業は今まで通り18時閉店である。
万が一、商品に興味を持ってくれた人がいたとしても、入り口のシャッターが閉まった状態では買ってもらうことなどできないのだ。

力なく首を振ったわたしに、奈々美さんは明るい話題を提供しようとしてくれたのだろう。「そういえば、聞いた?」と、身を乗り出してきた。

「クリスマスイブの土曜日、駅前広場でやる商店街主催のイベント。芸能人が来るんだって!?」

「ああ、知ってます。ネットから人気が出始めてるアイドルグループですよね」

まだそれほど知名度はないらしいけど、すでに熱狂的なファンがつき始めているそうだ。イベントの目玉として張り切って呼んだため準備に手こずっているのか、店長もここのところよく店を留守にしている。

関心がないわけじゃないけれど、頭の中は他のことで埋め尽くされて余地がなかったから、イベントに関する詳しいことは聞き流していた。どうせわたしは店番だろうし。

「見て、この子たち。けっこうカッコいいと思わない?」

素早く検索した結果が表示されたスマホの画面を向けてきた。高校生から30歳までの男性5人組で、かわいい弟系からワイルドなタイプまで年齢も容姿もバラエティーに富んでいるのが、幅広い女子層に受けている理由らしい。

「私は、この右端の子がいいかな。円ちゃんは?」

奈々美さんが指差したのは、アイドルなのに珍しく銀縁の眼鏡をかけた黒髪の人。涼しげな目元をした20代半ばのイケメンだ。あ、白衣のコスプレとか似合いそう……。

奈々美さんの意外な趣味を垣間見た。
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