デジタルな君にアナログな刻を
「わたしは……、これ?」
どうでもいいとは言い出せない雰囲気に、ぱっと目に付いたひとりを示す。ウェーブのかかった茶髪の目が大きな男の子。どうやら最年少の子だったらしく、奈々美さんの向ける生暖かい眼差しがむず痒い。適当に選んだだけなんですが。
アイドルを好きになるのは否定しないけれど、どう考えたって住む世界が違う、普通なら接点など生まれるはずのない人たちだ。発展しない恋心なんて不毛すぎる。――あれ?
不意に目の前にかかっていた霧に、一筋の光が差し込んだような気がした。
店長のこと、芸能人かなにかだと思えばいいんじゃない?一時期『逢いに行けるアイドル』なんてのも流行ったことだし、握手会に参加するノリの距離感を保っている分には、想うのは自由。
高校の時は、ただ一緒にいて楽しくおしゃべりするだけで満足していたんだ。それに比べたら、日中何時間も同じ店内で過ごし、毎日のようにお茶して他愛もない話ができる現状は、もしかしてそれ以上なんじゃない?将来を考えられないのなら、この関係で十分。
うん、そうだ。そうしよう。
想う相手が芸能人だと考えれば、たとえ致命的な音痴なのに歌手デビューしり、英語なんか話せないのにハリウッドデビューを目指したとしても、「頑張って!あなたの夢を応援するわ」とぬるい気持ちで見守れる。
いい案を思いついたとひとり悦に入っていたら、奈々美さんが残っていたお冷やを一気飲みして不敵な笑みを浮かべた。
「イベント当日、会場整備に駆り出されているのよね。場合によっては、彼らとおしゃべりくらいはできるかもしれないじゃない?上手くいけば、連絡先なんて聞けちゃうかも」
妄想を膨らませた可愛らしい笑顔の下で、ガリッと氷をかみ砕く音がする。ここにも夢見るアラサー発見!
だけど彼女の場合、なんだか実現しそうな凄みがあるのはなぜだろう。
「一緒にランチをするの、今年はこれが最後かもね。忘年会は無理っぽいけど、新年会はしよう?」
会計をしながら呟いた彼女の一言に、もうすぐ今年も終わるという実感が沸く。
「タイガーさんはお正月休みは長いんですか?」
さすがに年末年始に不動産屋へ来る人も少ないのだろう。奈々美さんの声は明るく弾む。
「それが、27日から5日までなの。せっかくだから、友達と温泉で年越ししようと思ってて」
なんとも羨ましい話である。ウチの年末年始の営業はどうなっているんだろう。あの調子だと松の内まで休業しそうで怖い。
それに、長く休みをもらえても彼女みたいに旅行に行くわけじゃないし。「いいですね」と応える声が上滑りになった。
どうでもいいとは言い出せない雰囲気に、ぱっと目に付いたひとりを示す。ウェーブのかかった茶髪の目が大きな男の子。どうやら最年少の子だったらしく、奈々美さんの向ける生暖かい眼差しがむず痒い。適当に選んだだけなんですが。
アイドルを好きになるのは否定しないけれど、どう考えたって住む世界が違う、普通なら接点など生まれるはずのない人たちだ。発展しない恋心なんて不毛すぎる。――あれ?
不意に目の前にかかっていた霧に、一筋の光が差し込んだような気がした。
店長のこと、芸能人かなにかだと思えばいいんじゃない?一時期『逢いに行けるアイドル』なんてのも流行ったことだし、握手会に参加するノリの距離感を保っている分には、想うのは自由。
高校の時は、ただ一緒にいて楽しくおしゃべりするだけで満足していたんだ。それに比べたら、日中何時間も同じ店内で過ごし、毎日のようにお茶して他愛もない話ができる現状は、もしかしてそれ以上なんじゃない?将来を考えられないのなら、この関係で十分。
うん、そうだ。そうしよう。
想う相手が芸能人だと考えれば、たとえ致命的な音痴なのに歌手デビューしり、英語なんか話せないのにハリウッドデビューを目指したとしても、「頑張って!あなたの夢を応援するわ」とぬるい気持ちで見守れる。
いい案を思いついたとひとり悦に入っていたら、奈々美さんが残っていたお冷やを一気飲みして不敵な笑みを浮かべた。
「イベント当日、会場整備に駆り出されているのよね。場合によっては、彼らとおしゃべりくらいはできるかもしれないじゃない?上手くいけば、連絡先なんて聞けちゃうかも」
妄想を膨らませた可愛らしい笑顔の下で、ガリッと氷をかみ砕く音がする。ここにも夢見るアラサー発見!
だけど彼女の場合、なんだか実現しそうな凄みがあるのはなぜだろう。
「一緒にランチをするの、今年はこれが最後かもね。忘年会は無理っぽいけど、新年会はしよう?」
会計をしながら呟いた彼女の一言に、もうすぐ今年も終わるという実感が沸く。
「タイガーさんはお正月休みは長いんですか?」
さすがに年末年始に不動産屋へ来る人も少ないのだろう。奈々美さんの声は明るく弾む。
「それが、27日から5日までなの。せっかくだから、友達と温泉で年越ししようと思ってて」
なんとも羨ましい話である。ウチの年末年始の営業はどうなっているんだろう。あの調子だと松の内まで休業しそうで怖い。
それに、長く休みをもらえても彼女みたいに旅行に行くわけじゃないし。「いいですね」と応える声が上滑りになった。