デジタルな君にアナログな刻を
お昼休みを終えて店に戻ったわたしは、さっそく店長に聞いてみる。

「お正月はお店をどうするんですか?せっかくだから初売りします?福袋とか」

「時計の詰め合わせなんて、買う人いるのかなあ」

「別にセットにしなくてもいいじゃないですか。限定で値引きするとか、オマケを付けるとか」

提案しながら、今からノベルティを作るのは時間が難しいかなとか、『薗部時計店』って入った白タオルをもらってもあまり嬉しくないか、などと思案するわたしに広い背中を向けて、店長は吞気に机上のパソコンで時計の画像を眺めていた。

もっと真面目に!とお小言を言いそうになる気持ちをぐっと抑えて、自分に言い聞かせる。アイドルは夢を与えるもの。庶民のように生活感を滲ませてはいけない。きっと流れる時間も違うのだ。

とはいえ、現実には店の売り上げが、わたしのお給料に関わる問題であることも確か。

「じゃあせめて、クリスマスまでだけでも営業時間を延ばしませんか?」

「なんで?祖父さんの時から、ウチの閉店は6時なんだけど」

心底理由が分からないといったふうの返しに、我慢していた疲れがどっと押し寄せる。

「いつの時代の話ですか。仕事終わりの帰宅ラッシュ時にお店を開けていなかったら、お客様は買いたくても買えませんよ。店長が嫌なら、わたしだけでも残ります」

包装だって店長より早くできるし、普通の時計の時刻合わせくらいならわたしにだってなんとかなる。どうしてもの時だけ、自宅に帰った店長を呼び出せばいい。
そう主張しても「それはできない」と強く反対された。

「円ちゃんの帰宅が遅くなる。寒くて暗い夜道を自転車で帰すだなんて心配だよ」

「そんなに……子どもじゃないです」

キャスター付きの椅子を軋ませながら回転させわたしと対面した店長は、鬱陶しい前髪の下から真っ直ぐにこちらを見上げる。

「知ってる。だけど心配。……じゃあさ、毎晩、僕が車で家まで送っていく、それならどう?」

「店長にそんな面倒なことをさせられません。それに、朝はどうするんです。毎日バスで来いと?」

さすがに交通費はもらっていない。数日なら必要経費と割り切ってしまうこともできるけど、そこまでされる理由がみつからない。なにをそんなに渋るのだろう。
お互いに言い分が平行線を辿り、もやもやとした沈黙に包まれる。それを破るように、店長がポンと手を打った。

「だったら、家においで?」
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