デジタルな君にアナログな刻を
天板の汚れを拭くついでに、店中のガラスというガラスを磨いて回る。だけどそれほど大きくない小売店。あっという間にすべてがぴかぴかになってしまった。
掃除のほかに、この店でわたしにできることといってもそれほど多くはない。さあ、何をしようかと見渡した目の端に、あの振り子時計が映り込んだ。
止まったままの針。あれをもう一度動かすことはできないのだろうか。きっとその方が、時計も嬉しいはず……。
そんなことを考えている自分がいて、思わず自嘲の笑みが漏れた。「時計も嬉しい」などと思う日が来るなんて。
左手首に目を落とせば、腕時計は午後3時24分を指していた。
店長はまだ帰ってこないのかな?彼の好きなお茶の時間はもう、とっくに過ぎてしまったのに。
たった一時間程度の間に、何度視線を向けたかもわらかない表通りを、ショーウィンドウ越しに見やる。
あれ、あの車。ウチのお客さんかな。
店の前のロータリーに黒塗りの厳つい車が静かに停まった。わたしでも知っている外国産高級車の後部座席のドアを、運転席から回ってきたスーツの人が開けると、ゆっくり降りてきたのは今時珍しい和服の男性。柿渋色の羽織の袂から伸びた手には杖を持っている。その割には危なげない足取りでこちらへと歩いてきた。
わたしは慌てて掃除道具をカウンターの下に隠し、出迎える体裁を整える。開いた自動ドアに向けて、丁寧に腰を折った。
「いらっしゃいませ」
ひとりで入店してきた老人は、訝しげにわたしを見るなり、ふんと鼻を鳴らす。どこからみても、この店には不釣り合いな風貌だ。「おじいちゃん」とはとても呼べない。
僅かに残った頭髪は真っ白で、綺麗に後ろへ撫で付けてある。同じく真っ白な眉の下の眼光は細いけれど鋭く、眉間にはそれがディフォルトであるかのようにくっきりしたシワが寄っていて、表情をより険しいものにしていた。
これって、この人って。わたしの頭の中に、人生で関わってはいけない種類の職業が羅列されていく。
「あれはどこだ」
「……は、はいっ?」
不機嫌を隠さず放たれた問いに裏返った声で返事をし、必死に店内を見回した。あれ?あれってなによっ!?
掃除のほかに、この店でわたしにできることといってもそれほど多くはない。さあ、何をしようかと見渡した目の端に、あの振り子時計が映り込んだ。
止まったままの針。あれをもう一度動かすことはできないのだろうか。きっとその方が、時計も嬉しいはず……。
そんなことを考えている自分がいて、思わず自嘲の笑みが漏れた。「時計も嬉しい」などと思う日が来るなんて。
左手首に目を落とせば、腕時計は午後3時24分を指していた。
店長はまだ帰ってこないのかな?彼の好きなお茶の時間はもう、とっくに過ぎてしまったのに。
たった一時間程度の間に、何度視線を向けたかもわらかない表通りを、ショーウィンドウ越しに見やる。
あれ、あの車。ウチのお客さんかな。
店の前のロータリーに黒塗りの厳つい車が静かに停まった。わたしでも知っている外国産高級車の後部座席のドアを、運転席から回ってきたスーツの人が開けると、ゆっくり降りてきたのは今時珍しい和服の男性。柿渋色の羽織の袂から伸びた手には杖を持っている。その割には危なげない足取りでこちらへと歩いてきた。
わたしは慌てて掃除道具をカウンターの下に隠し、出迎える体裁を整える。開いた自動ドアに向けて、丁寧に腰を折った。
「いらっしゃいませ」
ひとりで入店してきた老人は、訝しげにわたしを見るなり、ふんと鼻を鳴らす。どこからみても、この店には不釣り合いな風貌だ。「おじいちゃん」とはとても呼べない。
僅かに残った頭髪は真っ白で、綺麗に後ろへ撫で付けてある。同じく真っ白な眉の下の眼光は細いけれど鋭く、眉間にはそれがディフォルトであるかのようにくっきりしたシワが寄っていて、表情をより険しいものにしていた。
これって、この人って。わたしの頭の中に、人生で関わってはいけない種類の職業が羅列されていく。
「あれはどこだ」
「……は、はいっ?」
不機嫌を隠さず放たれた問いに裏返った声で返事をし、必死に店内を見回した。あれ?あれってなによっ!?