デジタルな君にアナログな刻を
店長が読み散らかした書類をまとめ机の上を片付けたり、わたしなりに、商品である時計を目を引くと思う配置に変更してみたりした。クリスマス用のディスプレイは明日……というより、ウチでは今日までしか使えない。お正月や春になるまでの期間に飾れそうなものが、あるものを活かしつつできないかと思案した。

ツリーは片付けるとして、雪の模様などはまだそのままでも良さそう。ホームセンターで買ってきた厚紙を使ってなにか作れないかな。店のパソコンを借りて調べてみた。
ああ、せめて折り紙くらいは欲しい。だけど買いに行くわけにもいかないし。

とりあえず、案だけでも書き留めていく。29日から4日までの休暇中に家で作ってもいい。どうせすることなんてないのだから。

時折、窓の外に派手な赤いはっぴ姿の人たちが映る。その中に店長の姿を見つける度に目で追ってしまい、作業の手が止まっていた。あんな小さくみえるお揃いのシルエットでさえすぐに彼だと分るんだから、わたしの恋心も相当なものだ。

再び手元に視線を戻す。引き出しの内寸を測り、電池の大きさを確かめながら、どう区切るのが一番スッキリと収まるか、裏紙を使い模索していた。何種類もある電池類が、ゴチャゴチャに押し込められているのを発見した時から、いつかやろうと思っていた作業。今日は「そろそろお茶にするよ」とか「このカタログ見て!新製品が出るんだって」などという横槍が入ることなく存分にできる。

そう思うのに、人ひとり分が空いただけの空間を薄ら寒く感じてしまうのは、いつもより店の外が賑やかなせいかな。

不安定な気持ちを抱えたまま、引き出しの中を仕切るために不要な空箱を細工していた時、自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

入ってきた見知った顔に、営業用ではない笑みが浮かぶ。数少ない当店のお得意様である。

「こんにちは。今日はあんたひとりなのかい?」

「こんにちは、尾崎様。すみません、店長はイベントの準備に出ていて」

わたしが外に目を向けると、尾崎様も振り返って納得したように笑った。

「どこも人手不足で大変だね。なに、別に哲君でなくてもいいんだよ」

「どんなご用件でしょうか」

少し緊張しながら尋ねると、尾崎様はショーウィンドウを指差す。その先には、例のアリスのからくり時計。

「あの時計が欲しくてね。孫にやりたいんだが、包んでもらえるかい?」

「でも、もう以前に……」

商品を買ってもらう側なのに余計なことを口走りそうになり、慌てて口をつぐむ。だけど尾崎様には、しっかりと言いたいことが伝わってしまった。

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