デジタルな君にアナログな刻を
「遅くなってすみません」

運営本部のテントを覗くと、「おお、来た来た」と商店街組合の会長さんに出迎えられた。あのはっぴを渡され、さっそくコートを脱いで袖を通したけれど、ペラペラの薄い生地を寒風が突き抜ける。カイロでも貼ってくればよかったな。

首を縮め両手を擦り合わせながら会長さんについて即席のステージ裏へ行くと、よく知った声に呼ばれた。

「円ちゃーん!」

不動産屋の事務服の上にやはりはっぴを着た奈々美さんの、膝丈のスカートから出ている肌色ストッキングの足が寒々しい。タートルネックにスキニーパンツの自分の方がまだましだと思え、ぶるりと身体を震わせせた。

「奈々美さん、寒くないんですか?」

「寒いわよ、もちろん。だからババシャツは二枚重ねだし、カイロは体中に貼り付けてきたの。両足の裏にもばっちりよ!」

黒いローヒールのパンプスを片方脱いでわざわざ見せてくれる。寒そうに身を縮めているのを哀れに思ったのか、スカートのポケットに入っていたカイロをひとつ譲ってくれた。
わたしと違い彼女は前もって参加がわかっていたから、準備万端で臨めたということか。

6時半からの式典開始にあわせ、辺りの喧騒がだんだん大きくなってきていた。噂のアイドルグループのミニライブは7時から。それまでは開催の挨拶などがあるらしい。

あれがロケバスというものなのかな。そこそこ大きめのマイクロバスが停まっている。座席側の窓はスモークガラスになっていて、こちらからは中が窺えない。

「あの中で待機しているの。さっき、差し入れの飲み物を持っていった時に覗いちゃった」

わたしの視線の先を読んだ奈々美さんは、特ダネを仕入れたレポーターみたいに瞳を輝かせた。

「まさか、本当に連絡先を交換できたとか言わないですよね?」

「その逆。もうね、がっかりよ」

外国の人みたいに広げた両掌を上に向け首を竦めてみせる。周囲をちらちらと気にしつつ手招きし、わたしを近寄らせて耳に手を添えてきた。まさに内緒話の体勢。

「車中の雑談が聞こえてさあ。『イブの夜にこんなところに集まるなんて、みんな暇人だよね~』とか言っちゃって。まあ、それは別にいいんだけど」

いやいや。お客様、ファンの皆さまあってこその芸能活動でしょうが。人気商売の実態に呆れながら、次の言葉を待つ。
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