デジタルな君にアナログな刻を
「だって、人当たりも悪くないし、いい男だし。なにより玉の輿じゃない」

真美子さんは首を伸ばしステージの上に注目しながら、店長のお薦めポイントを並べる。会長さんのスピーチは、お正月セールの宣伝に移っていてようやく終わりそう。だけどその前に。

どうしてそんな誤解をしているのかは知らないけれど、彼女のお総菜屋さんの方がずっと繁盛しているはず。バイトしていた時は、夕方になるとひっきりなしにお客様が来ていた。あの忙しさが懐かしくさえ思えてくる。

「自営の時計屋さんが玉の輿ですか?あの店、それほど儲かっていないと思いますけど。それから、ウチの店長がどこにいるか知ってますか?さっきからみつからなくって」

イベントが始まってもこの場にいないということは、「若いヤツ、行ってこーい」的に離れた場所に行かされている可能性が高い。

「おや、知らなかったのかい?」

怪訝な顔をしたわたしに戻した真美子さんの顔も、訝しげな面持ちだ。なにか言いたそうにいつもより濃い赤の唇が開きかけたと同時に、会場からパラパラとまばらな拍手が起きた。
司会者から、続いて『こうそくクン』の紹介と受賞者の表彰式が行われるとの案内がされる。

「そろそろ出番だね」

お盆を持ち直し、柄にもなく緊張を顔に張り付かせた真美子さんに、話の続きを促すのは酷というもの。店長は自力で探すことにしよう。

係員に呼ばれて慣れない和装でステージに登る真美子さんを見送る。駅長が受賞者に賞状と副賞を渡すと、さっきのスピーチの時よりは大きな拍手がわいた。

あのデザインの考案者って小学生だったんだ。ずいぶんと心の中でこき下ろしていたことを、ちょっとだけ反省。きっと彼女の中での王子様像はあんな感じなのだろう。でもやっぱり、なんだかなあ……。

華々しい音楽と共にヨロヨロと壇上に現れた『こうそくクン』を見た、観客の皆さんの微妙な反応がすべてを物語っているような気がする。ところどころから、失笑も聞こえてきていた。

だけど、そうなってくると不思議なもので、あのぜんぜんゆるくないゆるキャラに対し、母性とか庇護欲とか、そういった類いの感情がじわじわとわいてくる。

よく見れば、つぶらな瞳は可愛いし、頭の形だって星形のわりに角張ってなくて優しい印象だ。なにより、パフ・スリーブやかぼちゃパンツからすらりと伸びた手足はモデルのよう……おおっと、それはデザインとは関係ないな。

だんだん愛着が生まれてきて、ついには重心の取り難い頭で、なんとか身体を真っ直ぐに保とうと四苦八苦しているこうそくクンを、両手を握って応援している自分がいた。

そうこうしているうちに無事式典は終わり、いよいよメインのミニライブへと進行が移される。ステージの上がそれに合わせ、多少のセットチェンジが行われているうちに、わたしたちも持ち場についた。
さすがに中心部分は比較的若めの男性陣が担当し、わたしや奈々美さんはそれぞれ左右の袖近くを任される。頼りないロープを前にして客席側を見渡せば、観客は更に増えていて、いつしか駅前広場は黒山の人だかりとなっていた。
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