デジタルな君にアナログな刻を
式典の挨拶が圧したのか、時刻はミニライブ開演予定時間を過ぎ、19時11分になっていた。

ステージの明かりが落ち、ざわめきが一瞬止む。暗がりでも全員が目を凝らして舞台上に期待の眼差しを向けていることがわかった。
次の瞬間、辺りは暗さに慣れかけた目に眩しすぎる照明と、鼓膜が破れるかと思うほどの爆音、それをも打ち消しそうな黄色い歓声に包まれる。
首だけひねって後ろを見やると、5人の男の子達がそれぞれのイメージカラーの入った衣装で登場していた。

「みなさーん!メリークリスマス!!」

見事に揃った声は、「イブに仕事なんてかったるい」なんて本音はこれっぽっちも感じさせない、テンションの高いもの。

「皆さんと一緒にクリスマスイブを過ごせて、最高ですっ!」

さっきの話を聞いていなければ、心の底から出たものだと疑う余地もないほど明るいトッキーの少し高い声が、会場のボルテージを上げる。やっぱり彼らはプロの芸能人なんだ。盛り上がる一方の場内と反比例して、わたしの頭は冷静に働いていた。

これ、大丈夫なの?

そう思い始めたのは、終盤にさしかかった頃。初めのうちは、まだ観客の人たちの間にあった隙間は徐々に狭まり、今では肩が触れんばかりに密度を増している。確実に間は詰められて前方へと寄ってきていた。

張られたロープは限界まで前に引っ張られ、最前列の人たちのつま先や上半身はすでにそれより内側に入り込んでいる。わたしたちが両腕を広げて下がるように訴えたところで、最大音量の音楽となりふり構わず叫ばれる歓声にかき消され、まったく意味をなさない。特に目の前の集団には、わたしの存在など空気に等しいのだろう。ステージに夢中だ。

「最後の曲は、素敵なゲストが6人目のメンバーとして一緒に踊ってくれまーす!」

歌とダンスで息を切らせながら紹介され、場内の期待が舞台袖に集まった。だが、スポットライトを浴びて出てきたのは『こうそくクン』。ほんの少しだけ、会場周辺の気温が下がった気がする。

相変わらずの覚束ない足取りで恥ずかしそうに両手を振りながら舞台中央に立つと、周りを取り囲んだメンバーと握手を交わした。

「こうそくクン、よろしくね」

トッキーが自分より高い位置にあるこうそくクンの肩を組むと、わたしの前で悲鳴のような声が上がる。憧れの人の手が、不気味なゆるキャラに触れたことが許せなかったのかもしれない。……失礼な。

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