デジタルな君にアナログな刻を
自動車を十分ほど走らせて着いたクリスマスイブの救急病院は、こういってはいけないけれど大繁盛。顔を真っ赤にして辛そうに泣いている赤ちゃんや、指に血の滲んだガーゼをあてている男の人。
表から聞こえてくる救急車のサイレンや病院独特の匂いが、付き添いで来ただけのわたしまで緊張させる。

待合室にいる人たちの中では比較的軽症と判断された店長は、レントゲンを撮って骨には異常がないことを確認するだけでも、ずいぶんと時間がかかってしまった。

店長の診察を待っている間、一度外に出て家に電話をかけたけれど、母はお風呂にでも入っているのか繋がらない。それなら充に……ってなんで出ないの?何度かかけ直してみてもやっぱりダメで、終いには電源を切られていた。

『仕事でちょっとトラブルが起きて、帰るのが遅くなります』

仕方なく母に、嘘ではないけど真実でもないメッセージを送ったところで、入れ違いに長文のメールが届く。奈々美さんからだ。

内容によると、一時中断されたライブはあの後再開され、彼らは予定より2曲多く歌って場を納めてくれたそうだ。なんだかんだいっても、やっぱりプロだなと感心する。
わたしを突き飛ばした人は、騒動に紛れていなくなってしまったらしい。怒った絵文字が大量に入力されていて、奈々美さんの怒りの度合いはわたしよりすごそう。

最後は『拘束王子、お大事に~』とハートマーク付きで締めくくられていた。

拘束?誤変換かな?
返信を打ち込んでいるうちにも、指先はどんどん冷たくなってくる。
とりあえず、現状の報告を送って待合室に戻ると、ちょうど左腕をぐるぐる巻きにされた店長が診察室から出てきたところだった。包帯の眩しいくらいの白さがあまりにも痛々しくて。

「も、もしかして骨折ですか?」

恐る恐る尋ねてみれば、無事な右手がヒラヒラと振られる。

「こんな大げさにされたけど、ただの捻挫。だからそんな顔しない」

人差し指でおでこの真ん中を押された。捻挫かあ。とりあえず安心してもいいよね?
ほっとしていたところへ、奈々美さんの旦那さん――三好(みよし)さんが水をさす。

「捻挫だって侮っていたら、痛い目に遭うぞ。先生に言われたとおり、ちゃんと安静にしてしっかり治せよ」

「安静、ですか……」

途端に不安に襲われたわたしに三好さんは大きく頷いてみせるから、ますます心配になって店長を見上げた。彼は目が合うとくしゃりと笑って、頭にぽんと右手を乗せる。

「大丈夫って言ったよね?三好さんも、女の子をそんなに怯えさせないでください。ただでさえ顔が怖いんだから」

キッと睨んでみせるけれど、迫力なんかぜんぜん彼には敵わない。三好さんはガハハと笑い飛ばしてから、真顔でもう一度念を押す。

「いいか?とにかく無理はするなよ。円ちゃんも、しっかり見張っていてくれな」

いつもわたしを子ども扱いする店長が、いいようにあしらわれているのを見るのは不思議な気分だった。
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