デジタルな君にアナログな刻を
三好さんの車で駅まで送ってもらい、私と店長が薗部時計店に戻ったのは、午後10時半になるところだった。
イベントはとっくに終了していて、ツリーが灯る以外、ロータリーはほぼいつもの夜に戻っている。大きな機材は解体され、交通の邪魔にならない場所にひとまとめにしてあり、あらかたの片付けは済んでいた。
「ホント、骨が折れていなくて良かったです。今、コーヒーでも淹れますね」
コートを着たまま、事務室の電気ポットでお湯を沸かす。無人だった店内はすっかり冷えていて、身体の内側から温めたかった。
「インスタントですけれど」
カウンターの内側だけ電灯を点けた店内。
その明かりの下で、ハサミを使って郵便物の封を開けるのにも苦労している店長の右横に、ブラックコーヒーを淹れたマグカップを置いた。
「ありがとう」
左手の自由が利かない彼に代わり、封筒を開けながら今日一日のお店の様子を報告する。
「遠藤様の時計の電池交換はどうしましょう?火曜日に取りにいらっしゃる予定なのですけど」
「うーん。そうだなあ」
彼は無意識に書類を持っていた右とは逆、左手をカップに伸ばそうとして「痛っ」と眉をしかめる。この様子では約束の日までに仕上げることは難しそうだ。
「わたしにもできればいいんですけど」
「大丈夫。なんとかなるよ。お客さんには僕から連絡をしておく」
店長は吞気に言い、カップを右手で持ち直した。カウンターに腰を預けてフーフーと冷ましながらコーヒーを飲み始める。
わたしも立ったまま、いつもより砂糖を多くしたコーヒーをゆっくりと飲んだけれど、熱さを感じるのは喉を通る一瞬だけ。しっかり固定された店長の左手首の真っ白な包帯が目に入るたびに、わたしの心臓までぐるぐる巻きにされたみたいにギュッとなる。
怪我をさせてしまった罪悪感と、自分の無力さを思い知らさせられていた。
イベントはとっくに終了していて、ツリーが灯る以外、ロータリーはほぼいつもの夜に戻っている。大きな機材は解体され、交通の邪魔にならない場所にひとまとめにしてあり、あらかたの片付けは済んでいた。
「ホント、骨が折れていなくて良かったです。今、コーヒーでも淹れますね」
コートを着たまま、事務室の電気ポットでお湯を沸かす。無人だった店内はすっかり冷えていて、身体の内側から温めたかった。
「インスタントですけれど」
カウンターの内側だけ電灯を点けた店内。
その明かりの下で、ハサミを使って郵便物の封を開けるのにも苦労している店長の右横に、ブラックコーヒーを淹れたマグカップを置いた。
「ありがとう」
左手の自由が利かない彼に代わり、封筒を開けながら今日一日のお店の様子を報告する。
「遠藤様の時計の電池交換はどうしましょう?火曜日に取りにいらっしゃる予定なのですけど」
「うーん。そうだなあ」
彼は無意識に書類を持っていた右とは逆、左手をカップに伸ばそうとして「痛っ」と眉をしかめる。この様子では約束の日までに仕上げることは難しそうだ。
「わたしにもできればいいんですけど」
「大丈夫。なんとかなるよ。お客さんには僕から連絡をしておく」
店長は吞気に言い、カップを右手で持ち直した。カウンターに腰を預けてフーフーと冷ましながらコーヒーを飲み始める。
わたしも立ったまま、いつもより砂糖を多くしたコーヒーをゆっくりと飲んだけれど、熱さを感じるのは喉を通る一瞬だけ。しっかり固定された店長の左手首の真っ白な包帯が目に入るたびに、わたしの心臓までぐるぐる巻きにされたみたいにギュッとなる。
怪我をさせてしまった罪悪感と、自分の無力さを思い知らさせられていた。