デジタルな君にアナログな刻を
「ライブは楽しめた?」

店長は、自責の念に駆られ黙り込んでしまったわたしに柔らかく尋ねる。怪我人に気を遣わせるなんて、ますます自己嫌悪。

「……ほとんど後ろ向きだったから、よく見えなかったです」

「あ、そうなんだ」

店長の声に、あからさまにほっとした色が混じっていたので、思わずくすりと笑みが漏れた。よっぽど隠しておきたかったのだろう。

「こうそくクンのダンスはしっかり見ましたよ。もしかして、浅見さんに教えてもらっていたんですか?」

あの親子の様子では、振りを完コピしていても不思議ではない。度重なる連行は、練習のためだったのではと思い至った。

「うわっ、やっぱり見られてたんだ。何としてでも、円ちゃんの参加を阻止するべきだった」

がっくりと項垂れる店長。朝のやり取りは、そういう意味だったのかと納得する。

「例の衣装の作製を依頼した時にノリノリで提案されて、仕方なく、ね。本当に仕方なくだから!」

むきになって言い訳する顔が心なしか赤い。店長でもこんな表情をするんだ。声に出しては絶対に言えないけれど。……かわいいです。

「こうそくクンの服も浅見さんが?」

「あの人、洋裁の先生だからね。予算不足で頭部しか作れなくって。で、結果あんな感じの仕上がりに」

こうそくクンに変身した自身の姿が思い出されたのか、苦笑いを浮かべている。
うーん。身体の方もちゃんと着ぐるみで作れていたら、もう少し一般受けするのかなあ。

「でも……わたしはあのこうそくクン、嫌いじゃないな」

ぽつりと呟いた独り言に、店長は信じられないというふうに目を見開いた。その驚きぶりがおかしくて、つい調子に乗ってしまう。

「ダンスもよかったですよ。一生懸命なのがひしひしと伝わってきて、かっこよかったです。わたしは好きだな、ああいうの」

本人にはとても面と向かってなんか言えないけれど、対象が『こうそくクン』の今ならば堂々と伝えられる。

店長はまさか褒められるとは思っていなかったのか、照れをごまかすようにコーヒーを呷っていた。
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