デジタルな君にアナログな刻を
午後1時 ランチ
結局午前中は、あの後メーカーからの電話が一本と、アウトレット行き直通バスの乗り場を訊きに来た親子連れがドアをくぐっただけ。
それでも時間は確実に進み、店中の動いている時計の時針と分針が、12時を指して重なった。
机に頬杖をつき右手にはボールペンを持ったまま今にも船を漕ぎ始めそうな店長に、奈々美さんとの約束を話して先にお昼に上がってもらうことにする。
12時48分。1時間ずつのお昼休憩なのに、10分以上残して店長が戻って来た。
「まだ早いですよ?」
「たった10分くらい構わないよ。交代するからゆっくりしておいで」
始業には遅れてくるのに。でも今日は、お言葉に甘えさせてもらおう。
「そうだ! 荷物が届いています。たぶん、この前修理をお願いした物だと思うんですけれど」
店長がお昼休みに入ってすぐ、12時07分に届いた小さな段ボール箱を渡す。午前中の配達希望指定なのに! と思ったけれど、そこは大人の対応でにこやかに受け取りましたよ。
「ああ、藤田さんの時計だね」
店長は箱を開け、丁寧に梱包された腕時計を白い綿の手袋をはめた手で取り出した。
ここは時計店だけど、修理やオーバーホールなどは製造メーカーや提携している時計修理技能士にお願いしている。3級時計修理技能士の店長ができるのは、簡単な電池交換やベルトの交換や調整くらい。それもなんだか危なっかしい手つきで、見ている方がドキドキする。
藤田様の時計も、店長のお父さんの知り合いだという技能士さんにお願いしていた。
慎重に腕時計を持ち確かめる大きな手を無意識に見入ってしまうのは、万が一にも落っことしたりしないかとかいう心配であって、それ以上でも以下でもない……はず。とくんと音を立てた心臓の音を、耳から消すようにぷるぷると頭を振る。
「電話は僕がしておくから。ほら、1時になっちゃうよ」
雑念に気をとられていたら、いつの間にか棚からファイルを取り出して藤田様の電話番号を調べている店長に時間を指摘される。おわっ! 本当だ。12時58分を過ぎていました。
「すみません、お願いします」
わたしは外した制服代わりのエプロンをロッカーへ放り込んで、羽織ったコートのポケットにお財布と携帯を突っ込む。
「いってらっしゃ~い」というのんびりした声に見送られて、また空っ風が吹く外に飛び出した。
店舗の裏口から出ると、並びにタイガーハウジングの扉もある。だけどその周辺に奈々美さんの姿は、まだなかった。
それでも時間は確実に進み、店中の動いている時計の時針と分針が、12時を指して重なった。
机に頬杖をつき右手にはボールペンを持ったまま今にも船を漕ぎ始めそうな店長に、奈々美さんとの約束を話して先にお昼に上がってもらうことにする。
12時48分。1時間ずつのお昼休憩なのに、10分以上残して店長が戻って来た。
「まだ早いですよ?」
「たった10分くらい構わないよ。交代するからゆっくりしておいで」
始業には遅れてくるのに。でも今日は、お言葉に甘えさせてもらおう。
「そうだ! 荷物が届いています。たぶん、この前修理をお願いした物だと思うんですけれど」
店長がお昼休みに入ってすぐ、12時07分に届いた小さな段ボール箱を渡す。午前中の配達希望指定なのに! と思ったけれど、そこは大人の対応でにこやかに受け取りましたよ。
「ああ、藤田さんの時計だね」
店長は箱を開け、丁寧に梱包された腕時計を白い綿の手袋をはめた手で取り出した。
ここは時計店だけど、修理やオーバーホールなどは製造メーカーや提携している時計修理技能士にお願いしている。3級時計修理技能士の店長ができるのは、簡単な電池交換やベルトの交換や調整くらい。それもなんだか危なっかしい手つきで、見ている方がドキドキする。
藤田様の時計も、店長のお父さんの知り合いだという技能士さんにお願いしていた。
慎重に腕時計を持ち確かめる大きな手を無意識に見入ってしまうのは、万が一にも落っことしたりしないかとかいう心配であって、それ以上でも以下でもない……はず。とくんと音を立てた心臓の音を、耳から消すようにぷるぷると頭を振る。
「電話は僕がしておくから。ほら、1時になっちゃうよ」
雑念に気をとられていたら、いつの間にか棚からファイルを取り出して藤田様の電話番号を調べている店長に時間を指摘される。おわっ! 本当だ。12時58分を過ぎていました。
「すみません、お願いします」
わたしは外した制服代わりのエプロンをロッカーへ放り込んで、羽織ったコートのポケットにお財布と携帯を突っ込む。
「いってらっしゃ~い」というのんびりした声に見送られて、また空っ風が吹く外に飛び出した。
店舗の裏口から出ると、並びにタイガーハウジングの扉もある。だけどその周辺に奈々美さんの姿は、まだなかった。