デジタルな君にアナログな刻を
間に合ったみたい。ほっとしているとすぐにカチャリとドアノブの回る音と一緒に、「いってきます」という奈々美さんの明るい声がした。

「ごめんね、待った?」

「いいえ、今出てきたところです。お店、どこにあるんですか?」

「ちょっと歩くけど、大丈夫?」

待ち合わせした恋人同士のような会話もそこそこに、彼女の先導で歩き始める。昼休みの時間には限りがあるのだ。お店での待ち時間なんかも考えると、そうゆっくりとはしていられない。

奈々美さんは新しくなった駅の方へと向かう。以前は改札口とホーム、小さなキオスクがあっただけの駅舎が、いまでは飲食店やスイーツ店、ファッション雑貨を売る店などが入っているちょっとした商業施設になっていた。

だけど彼女の目的の場所はそこにはないらしい。タクシーやバス乗り場がある駅前をずんずんと進み、わたしたちの店舗が入っている建物とはロータリーを挟んで反対側に建つビルの間にある細い道へと入っていった。

日の当たらないビルの隙間を抜けると、一気に視界が開ける。元は寂れてシャッター通りになりかけていた駅前商店街。それが何年も費やした行政や住民の努力によって少しずつ息を吹き返し、営業を再開した老舗や新しく始めたお店なども出てきた。

乾いた風に混じって届いた匂いで、なんとなく奈々美さんの目的のお店がわかる。

「ここよ。円ちゃんって辛いの平気だっけ?」

そう言って立ち止まったのはベタな黄色い看板のインド料理屋さん。結構大きな音を立てて回る換気扇がスパイシーな香りを屋外に吐き出していた。

実をいうとちょっと苦手。子供みたいといわれようがお寿司はサビ抜きだし、キムチなんて問題外! だけど、キラキラとした瞳でお店の外に掲示されたランチメニューを見つめる奈々美さんに、イヤとはとても言えなくて。

「激辛とかじゃなければ……」

なんて曖昧な返事を返してしまう。
うん、辛さも選べるみたいだしきっと大丈夫。ちょうど出てきたお客さんと入れ替わるようにして店内に入った。

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