デジタルな君にアナログな刻を
自転車では20分もかかる道のりも、自動車ならば10分弱で着く。領収書とお釣りを受け取り、この前店長が車を止めていた場所で降ろしてもらった。

古い市営住宅でも窓にささやかな電飾を飾っている家があり、まだ今日はクリスマスイブの夜だったのだと思い出す。我が家はといえば、ツリーなんて充が中学に上がった頃から飾っていない。

あれは弟が小2の時のクリスマス前。「サンタクロースは実はパパなんだ」と得意顔で言いふらすクラスメイトいると、泣きそうな顔で帰ってきた。それに対してわたしは、「ウチにはお父さんがいないのに、ちゃんとサンタさんが来るから違う」と胸を張って言い切ったのだ。あの頃が、恥ずかしくも懐かしい。

そっと玄関ドアを開けると、部屋には煌々と明かりが付いていた。

「おかえり」

こたつの部屋から声がする。腕時計で確認した時刻は午後11時24分。まだ母が起きていた。
荷物とコートを置き、うがい手洗いを済ませてからこたつに潜り込む。温かい部屋に、頭を使わなくても楽しめる深夜番組。ほっとする。

「遅かったね、お疲れ様。ご飯は?」

こたつ布団を持ち上げ肩まで潜ったまま、首を傾げた。さっきまで感じていた空腹は、どこへいってしまったんだろう。

「んー、済ませてきたからいい」

またひとつ、母親に小さな嘘をついてしまった。

「そう。じゃあ、ケーキ食べる?会社でもらったの」

こたつから立ち上がって台所へ行った母が座っていた席には、食べかけのイチゴのショートケーキとガラスのコップに入った赤紫色の液体。ワイン、かな。珍しい。その上なぜか、家族三人で写っている、まだわたしたちが小さい時の写真が置いてある。
ケーキの箱とお皿を運んできた母に、写真立てを突きつけた。

「なに、これ。縁起悪くない?」

「だって、円も充も帰って来ないんだもの」

1ピースだけ減ったホールケーキには六等分にナイフが入れられていて、砂糖菓子のサンタもウエハースの家もそのままだった。

「おうちとサンタ、どっちがいい?」

「え、別にいらないよ」

「昔はふたりで、ケンカしてまで取り合ってたじゃない。今日は選びたい放題よ」

子どもの頃はちょっとした大きさの違いでも言い争いになっていたけど、さすがにもうそんなことはしない。黙っていたら、母は勝手に家の方を取り分けたケーキの上にドンと乗せた。



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